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慈恩にキュンです
「さくらちゃん、今日って朝担当じゃなかったっけ?」
ここは、とある老舗の超高級旅館。
明治時代、ここの先代は京都の小さな山を切り開き和洋折衷の粋な宿泊施設を建てた。洋館と日本家屋、そして完璧な日本庭園を備えたこの施設は一気に知名度を上げ、地道にコツコツと長い年月をかけ超高級旅館へ上りつめた。
京都が大好きで幕末が大好きな歴女の私は、少しでも京都の風情と明治時代のノスタルジアを感じたくこの旅館に住み込みで働いている。
住み込みといっても昔のように旅館の小さな小部屋を与えられているわけではなく、旅館の広大な敷地の隅に従業員専用のワンルームが数室備わった離れがあり、そこで快適に過ごしていた。
そんな爽やかな日曜日の早朝、隣の部屋に住む環奈ちゃんから電話が入った。
私はベッドの上でその恐ろしい事実に気が付いた。
今日、十月一日は、本来、私はお休みの日だった。でも、二週間前の日曜日、実家で飼っているチワワのくうちゃんが体調を崩し実家へ飛んで帰ったため、日曜日のモーニング勤務を犬飼さんと代わってもらった。
代わってもらったという事は、私が犬飼さんの勤務の日曜日に働く事になる。その日曜日が今日だった、のかもしれない。
犬飼さんは、五日前、三か月ももたずにこの仕事を辞めた。
そして、北海道に新な刺激を求め行ってしまった。
変わった人で誰もラインの交換をしていない。
そんな印象の薄い犬飼さんとの約束事を私はすっかり忘れていた。
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