ガラス瓶

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ガラス瓶

 想いを詰め込んだ、透明のガラス瓶の中に。  楽しかったあの日の事。二人で出掛けた思い出の場所。泣きながら喧嘩したこともあった。 「見てるかな……ここに居るよ」  空を見上げれば、星が浮かんでいる。君は何処にいるのかなって探そうとして、思い直した。あんなに元気で目立ちたがりな君の事だから、無数にある星のうちの一つになんてなりたがらないような気がして。  ふと前を向き直る。 「ねえ、許してくれる?幸せになることを」  潮風がするりと頬を撫でる。それはまるで肯定の意を示しているようで、くすりと笑みが零れた。  海は全ての生命の源だ。海から生まれた生命は、きっとまた海へと還るのだろう。だから、君はここにいると信じて。 「……じゃあね」  揺れる水面がゆっくりと静寂を取り戻していく。  その想いは、海へと沈めた。
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