泡沫の情人

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 ようやっと墓が完成し、今こうして泉田の一部は此処に眠っている。  二年前の冬。蟠りを抱えたまま汽車に飛び乗り、佑月の元へと訪れた兵藤の目には、病に伏して変わり果てた佑月の姿があった。  一度は言葉を交わし合ったが、それから佑月は生死を彷徨う程の重体に陥った。  病室を移され、今夜が山だと医師に告げられた時。兵藤は約束通り、佑月が助からなければ、自分も後を追う覚悟を決めていた。  寝ずの番で佑月の手を握ってやり、ただひたすらに願い続けていた。泉田にどうか助けて欲しいと、何度も何度も訴えかけたりもした。  醜聞も厭わず兵藤は泣き崩れ、気付けば眠り込み朝を迎えていた。  慌てて佑月の顔を見ると、穏やかな顔で静かな寝息を立てていたのだ。  あれ程までに、神仏に感謝した事はない。  兵藤は安堵と喜びを抑えて、すぐに医者を呼びに走った。  医者からのお墨付きを貰うと同時に佑月が目を覚まし、兵藤は医者も看護婦も居る中で彼を抱きしめていた。  その際に、佑月が言ったのだ。 「あんたの言う通りだった。芳則さんが助けてくれた」と――  どういう意味かと兵藤が問うと、生死の境を彷徨う中で、泉田が目の前に現れた。それから謝罪を口にし、幸せになるようにと告げて消えたそうだ。  目が覚めた時には兵藤が涙を流していて、見守る医者や看護婦の姿があったという。
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