泡沫の情人

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「分からない。だから君に頼みたいんだ。相手が本気なのか、当人に聞いてもらいたい」  頼む、と言って、泉田は頭を下げる。  あまり気乗りはしなかったが、恩義のあった兵藤に断ることなど出来はしない。 「分かった。親友の頼みを無碍には出来ないからな」  それからしばらく経って、学校の冬休みが始まったのを見計らい、こうして兵藤は泉田に連れられて汽車に乗っていた。 「君をこんなことに巻き込んで、申し訳ないと思っている」  終始黙りこくっていた泉田が、ようやく口を開いた。 「別に構わない。役に立てる保証はないが、できる限りのことはする」 「……恩に着るよ」  それっきり泉田は再び口を閉ざしてしまう。窓の外に視線を逃がし、到着するまでは口を開くことはなかった。  一時間程、汽車に揺られ続け、辿り着いた先で更に、乗り合いバスに揺られること三十分。  都内とは違い、雪で閉ざされた山間に、まるで桃源郷のような世界が広がっていた。  しんしんと降る雪を彩るように、朱色の光が金剛石のようにキラキラと輝いている。  向かい合うように立ち並んだ宿は、どれも豪奢な造りとなっており、多くの観光客で賑わっているようだった。 「安月給の身じゃあ、こんな所は到底これそうもないな」 「そんなことはないよ。場所によっては、安い所だってある」  呆気に取られている兵藤に対し、泉田は慣れた様子で舗装された石畳を歩く。  山間という場所であっても、やはり観光地というだけあって、建物だけでなく道の整備もしっかりとされているようだった。 「昼にはまた違う顔が見れるんだ。山に登れば、滝も楽しめる。この時期は少し寒いかもしれないけれど、雪に覆われた木々の間を流れる滝もまた、情緒があって良い」  薄闇に沈む山を指さし、泉田が饒舌に語る。
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