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相手の心持ちを知った所で、良い風に転ぶとは限らない。だったら、知らん振りで付き合いを続けていく方が、よほど平和ではないかと思えていた。
「それもそうだな……そもそも、君を巻き込むこと自体、間違っていたよ」
やっと泉田が顔を上げる。どこか気まずそうな態度は、自分の言動を悔いているようにも見えた。
「それは別に構わない。こんな良い旅館に泊まれたんだ。礼を言いたいぐらいだよ」
兵藤の軽口に、やっと泉田が弱い笑みを作る。
「ありがとう。恩に着るよ」
「いいさ、別に」
空気が和らいだ所で、兵藤は風呂に行こうと泉田を誘う。
部屋に入ったことで、多少は体は温まっていたが、それでも芯まで温まりたかったのだ。
備え付けの浴衣を手に持ち、二人で浴場へと向かう。
客入りが少ないのか、風呂場には数人の客しかいないようだった。お陰で思う存分に、広い湯を二人で占領することが出来た。
一種の穴場だなと、兵藤はすっかりこの宿を気に入っていた。泉田と来るのも良いが、一人で来るのも悪くないとすら思えてしまう。
湯から上がって浴衣を着ると、二人並んで廊下を歩く。冷たい風が心地よく、障子から漏れている光が廊下を照らしていた。
二階に上がると、通りすがりの部屋からは三味線の鳴る音や手拍子が聞こえ、賑やかな気配が漂う。
自分たちの部屋に入ると、ちょうど夕餉の準備をしているらしく、仲居が配膳をしているところだった。
配膳を終えた仲居が出て行ったところで兵藤は、目の前に並べられた料理をじっくり眺めた。
「随分と豪勢だな」
鯛の煮付けに、刺身の盛り合わせ、野菜が盛られた小鍋まである。小鉢には煮物や豆腐まで添えられていた。
感嘆の声を上げる兵藤に対し、泉田は早々に銚子を手に持つ。
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