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【NC601-4-42】
砂漠の砂は時折、デイビッドをひどく不機嫌にした。義体の関節に砂がたまると、動作のたびに砂が擦れる音が出てしまうのだ。
しかし、もうデイビッドには砂漠以外の居場所が存在しない。やつらは強い照り返しを避けるため、砂漠上空を飛ばない。旧人類と同じで、やつらは地球の恩恵を貪れる土地に生息している。
旧人類が残したハイウェイは、絶望的な砂色にコントラストをもたらしていた。その道にしたがって所在なげに歩くデイビッドは、どこか昆虫のように見えた。
義体は疲れを知らなかった。それが太陽光で動く旧式だったことが功を奏したのだ。しかし、デイビッドは血眼で安息地を探し回った。
しばらく歩くと、あまりの暑さに歪む地平線に、人工的な輪郭があらわれた。デイビッドはその行為が無意味であるのにかかわらず、大きく息を吸うそぶりをした。
それは、小さなモーテルだった。ずいぶん昔に建てられたようで、看板は倒れていた。その大きな頭には、ネオンで描かれた筆記体の英語があった。
「TechMech Motel」
二十一世紀末に流行った義体推進派の連中が立てたのだろうか。デイビッドは歓迎されているように感じた。
砂まみれの扉を開くと、博物館の展示品のように飾られた、金色の義体パーツのお出ましだ。壁には紫色の虹彩をした眼球や、男女兼用の性器パーツが展示されている。
このモーテルが建築された時代は、義体の黎明期だった。裕福な者がお試し程度に換装することからはじまり、世界中からの抗議で、すぐさま障がいを抱えた人々に格安で擬態が提供されるようになった。
残留人類の多くも義体を有しているが、それは同時に成功者の証でもあった。義体を換装できなかった貧しい者は、みな旧人類としてやつらの餌食となった。
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