11人が本棚に入れています
本棚に追加
脳内意識に他人の声が響く感覚を、デイビッドは忘れかけていた。いや、もう記憶から消えていたのかもしれない。輸送機からの呼びかけに、彼ははじめてその文化に触れるようたどたどしく返答した。
「デイビッドだ。場所はわかるか」
「遅くなりました。現在の座標位置にて待機してください」
夜が明ける直前、空は紫に近い色をしていた。昼過ぎから早朝まで、デイビッドはおよそ十時間眠っていたのだ。
彼の義体が残留人類からの呼びかけに答えたということは、輸送機はジャマーの内側、すなわち地球へやってきたということになる。
デイビッドはところどころ塗装が剥げた廊下を歩いた。もう足音に気をつける必要はなかった。
「——まもなく到着します」
最初のコメントを投稿しよう!