きっと、なにか

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 ……空が美しい。  私の魂はまだ草に宿ったままで、ときとともに移ろう空を眺め感動することができている。  この草が青いうちか灰になって散るまでは生きていられるらしい。  土手の大きい仲間たちが一掃されるころには、空は紺や紫や橙に染まり、その下をトンボがせわしなく飛び交いだしていた。  ……このトンボや空も雨みたいに存在意義があるのだろうか。もしや、美しいと感動させるためにあるのだろうか。ならば、私も存在するだけでなにかの役に立っていたのだろうか。きっと、なにか。 「大量だな。みんな喜ぶといいな」  人間が私を持ちあげて、満面の笑みになった。  ……ああ。私たちがいなくなることで喜ぶものがいるなら、それはそれでいいかもしれない。  もう雨がうらやましいなんて思わない。  私の体は仲間とともにトラックの荷台に乗せられ、揺られだした。  いよいよさいごの地へゆくのだろう。
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