きっと、なにか

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「雨は生きものが生きるのに必要で、みんな雨を待っているのよ」  さいごに思い出したのは、母のこの言葉。  振り返る景色のなかでの私はまだ小さい。周りのおとなはみんな天を隠すほど背が高く、母もまたそうであった。  あのとき私は、すらりとした母の隣で川を震えながら見つめていた。草が消えていた。雨がたくさん降ったせいで川が荒れ狂い、土手の下にいた草が根こそぎもっていかれたのだ。 「雨はこわい。雨がこんなに降らなかったら、みんなあそこにいたのに」  そう涙ぐんだ私に、母はあのような言葉をかけた。悪いところだけでなく良いところもあると、教えたかったのだろう。  けど私は――、いま母と同じ運命をたどろうとしている私は、雨がうらやましいと思う。役に立ち必要とされる雨が。  おわりへのカウントダウンは始まっている。先ほどから、高速回転する刃が土手中にうなり声を鳴り渡らせ、緑葉のしぶきを浴びながらこちらへ猛然と突き進んでいる。  涙がつたう。  命絶えるのはこわくない。こうなる運命だと、母から教わったから。わかっているから。ただ、雨がうらやましい。
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