警告

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警告

 マーサと共に地上を目指す。 「足場が悪い、さ、手を。」 前を歩いてた瑛一がマーサに手を差し伸べるが彼女はその手を振り払った。 「結構よ。アンタの手助けなんて借りるものか。」 フンと鼻を鳴らし、顔を背ける。 そうは言ってもここでつまずいて巨大害獣に襲われでもしたら小隊が全滅する。 それだけはあってならない事なのだ。 「お前のためじゃない。 全滅を避けるためだ。」 ワガママを言うなと再度、手を差し伸べるが…。 ドォンと轟音と共に再び土煙が上がる。 「いやああああああああ…たすけ…うっうぇっ…。」 耳元で悲鳴と吐き声が聞こえた。 「マーサ!マーサ!何が起こった! 返事をしてくれ!」 一瞬の出来事だった。マーサが穴の壁に引き込まれて行くのがうっすら見えた。 「くそったれ! そんなに食い足りないなら俺を狙え!俺を食い殺せ!」 敵にわざと知られるように壁を打ち鳴らすが反応はない。 不気味に静まり返っている。 「おうい!おうい!誰でもいい。 俺を殺せ! ははっ、もう誰かが犠牲になるのを俺ァ見たくねぇんだよ…。」 その場で力なく座り込む。 進む気力すらない。 仲間を失うことは何も初めてではない。 紛争、強盗、害獣災害など様々な要因で友人や親戚を失った。 だが、目の前で仲間が散るのは耐えられないものだ。 「…ははっ、結局俺一人になっちまった。」 瑛一の渇いた呟きは地下に反響して消える。 ここで立ち止まってはいけないと重たい足を踏み締め、彼は進む。 「たとえ、俺一人でも…地上へ。」 一歩一歩着実に登る。 あと少しで手が届くとそう思った瞬間。 ガラガラと崩れ去り、後ろに引っ張られるように後退する。 地上に届いている光が憎らしい。 「くそっ、こんな時に!」 すぐ立ち上がると後ろからエンジン音のようなものが聞こえる。 「何だ?救援か?」 目を凝らして奥を見ると壊れかけのバギーと共に見知った顔が見えた。 「おうい!無事かー!ミヤモト!」 それは俺が1番聞きたかった隊長の声だった。 「無事です!それより隊長はー?」 精一杯、大声で返す。 安否を確認したのも束の間、よく見るとバギーの後ろに巨大な影が忍び寄っていた! 「た、隊長!後ろ!後ろから何か来てますー!」 「わかっている!ウラァ!」 見事なハンドル捌きで害獣にバギーごとタックルする隊長。 害獣は怯み、隊長はバギーから投げ出された。 瑛一は慌てて隊長に駆け寄る。 「無茶な事を…大丈夫ですか?」 「うっ、何とかな。」 腰をさすりながら立ち上がるアームストロング隊長に肩を貸す。 横穴を見つけ、一時そこに避難することに。 息を殺し、害獣が去るのを確認し、喋り出す二人。 「ミハイルとマーサはどうした?」 他二人の安否を確認するために隊長は横穴から顔を出して、辺りを見回す。 だが、人っ子一人いない。 「それが…二人とも土煙に紛れて連れ込まれました。」 項垂れながら言うと隊長は瑛一の頭を撫でて言う。 「お前だけでも合流できてよかった。 後の二人は地上に出ながらでも捜索はするが…あまり期待はできないな。」 基本、除染員たちは使い捨ての部隊であり、基本給は命懸けな為か高額だ。 その代わりにこの地下の害獣に立ち向かう兵器を一切持たされないのだ。 最初は死にに行くようなものだと民衆は反対運動を起こした。 政府と民衆は消耗戦となり、表向きは和平の条約を帰結した。 それは除染員となった本人とその家族には免税に加えて本人の死後、遺族の生活を一生涯保障すると言うものだった。 そんなものはまやかしだと今でも血気盛んな民衆が紛争を起こすことはあれど何とかおさまったのだ。 「にしても、俺たちはいつまで使い捨ての政府の犬を演じなければならないんだろうな。」 隊長が虚な目で呟く。 無理もない、彼には愛する奥さんと娘さんがいて養う為にこの仕事を十年もやり続けているのだと聞いた。 「ですね…誰か政府の目を覚させてくれるような救世主がいれば良いんですがね…。」 汚染された灰は不定期に降り積り、生命を奪う。 それは世の理から外れて手に余る技術を武器にしてしまった人類への罰なのだろうか? その事を専門家はじめ、一部の民衆は薄々感づいてると言うのに。 政府のマニフェストは『灰を浄化し、再び人類に地上の生活を!』というものだった。 そのお花畑な思考はメディアを通じて拡散されて、曲解され、やがては支持を集めた。 そうしてこの歪んだスケープゴートという「除染員」という組織が出来上がってしまったのだ。 人種も性別も年齢も関係ない。 あるのは終わりのない地上の灰を処理すると言う仕事だけ。 だが、背に腹は変えられないのだ。 その事を承知して志願しているのだ。 「おうい!マーサ!ミハイル!いるなら応答してくれ!」 隊長は二人の名を叫ぶが返事は返ってこない。 「マーサ!無事かー!」 ミハイルの叫び声を聞いた俺は隊長に真実を伝えなかった。 瑛一も叫び声を聞いただけで死体は発見していないのである。 だからこそ、一握の希望に賭けてみたい。 そう思う事は罪なのだろうか? 【To be continued】
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