地上

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地上

 世界は核という兵器に溺れ、『死の灰』という放射能が混じった灰が雨の代わりに降る世界となった。  人々は地上での生活を追われ、地下に居住地を移行し、早数年。 また地上での暮らしをとマニフェストを掲げた政府の下で働くある男の話。  俺、宮本瑛一はかれこれ数年、除染作業員として働いている。 やる事といえば地上に出て除染機器と呼ばれる機械を使って地上の『死の灰』の除去だ。 だが、『死の灰』はいつ何時、降るのかも予測や量もわからない。 つまり永遠に終わらないイタチごっこを俺たちは強いられているに過ぎない。 晴れ間に作業は開始されるのだが地下も地下で外敵は多い。 今日も今日とて、生産性のない作業にバギーへ乗り込み身を投じる。 「ねぇ、もっと詰められないの?」 チームの紅一点であるマーサが文句を言う。 「オメーのケツがでかいんだよ、我慢しろ。」 口悪く、同僚のミハイルが罵る。 「だったらあんたのワキガどうにかしなよインポ野郎。」 中指を立てながらバギーに乗り込むマーサ。 「まあまあ、二人とも喧嘩をするな。」 運転席のアームストロング隊長が諌める。 「隊長、だってこいつが…。」 不満そうにミハイルが反論するが体調は首を横に振る。 互いを罵り合いながらも二人は渋々仕事の資料を確認する。 ギスギスはしているがこのチームは比較的まだ殴り合いが起こらないだけマシだと言われている。 「三人とも、今日の任務は把握しているな?」 隊長がバギーを発進させ、俺たちに問う。 「任務も何も灰を除染する事以外俺たちにやる事ないっしょ。 な、エーイチ?」 助手席の俺の肩を叩き、ミハイルがいう。 「まあ、な。」 俺も億劫な気持ちを飲み込んで返事をする。 「そろそろ政府はこの除染を無駄だと理解しないかしら。」 呆れ事を口にするマーサ。 その言葉に一同同意し、地上へと向かうはずだった。 「総員!直ちにショック態勢!」 アームストロング隊長の怒号に皆、頭を守る。 頭さえ守っておけば命は助かる。 そう講習でも習ったことを思い出た。 転がるバギー内、ギチギチと嫌な音を立てて潰される音。 全てが恐怖を駆り立てるが俺は決して諦めなかった。 ドサッっとバギー外へ放り出される感覚。 静寂が辺りを包む。 「…何だったんだ?」 状況を確認するため、恐る恐る顔を上げる。 だが、視界の先には潰れたバギーと力なく倒れているマーサのみ。 「お、おい!しっかりしろマーサ!」 痛む脇腹を押さえながら立ち上がってマーサの所まで歩み寄る。 意識確認をすると。 「…んっ、ここは?」 意識が戻ったのか上体を起こし、マーサは状況を確認する。 「俺も気がついたら俺とお前しかいなかった。」 「何やってんの! アタシよりも隊長を探しなさい! てか、あのノー天気馬鹿もついでに探さなきゃ。」 スクっと立ち上がり、マーサは辺りを探索する。 「隊長ー!アームストロング隊長!」 「おーい!ミハイルー!無事かー?!」 2人して見回しながら大声を出す。 返事は返ってこない。 だが、微かに風の音が響いている。 音からして俺たちが背を向けている方向がどうやら地上に出る出口らしい。 これはアームストロング隊長の入れ知恵だ。 「取り敢えず、地上へ出よう。 丸腰じゃあ地下生物に立ち向かえない。」 潰れかけのバギーから除染機を出して背負う。 マーサも渋々と言った感じで同じ様に除染機を取り出した。 その時、ミハイルの除染機が潰れて使い物にならなくなっているのをみかけた。 「…二人とも無事で居てくれよ。」 祈るように呟き、瑛一は顔を上げる。 その瞬間。 「や、やめろおおおおお、たべ…で。 ママ…ママ、し、じゃ…ぐぎぎぎ…ががががが…ぐぎゅ…」 人間から発せられる声ではない獣の様な断末魔が洞穴のそこから響く。 「ま、まさかあの音って、バカミハイルの…。」 ヘルメット越しでも顔が真っ青になっているのがわかるマーサ。 「言うな。取り敢えず進むぞ。」 彼女の言おうとしていることはわかっている。 だが、認めたくなかったのだ、仲間の死を。 一握の希望を胸に地上への道を歩む。 「ね、ねぇ、やっぱり引き返して本部に報告しましょうよ。」 いつもの強気な姿勢から一変し、怖気付くマーサ。 瑛一の腕に縋るが彼はマーサを励ます。 「マーサ、この地下で例え徒歩で戻ったとしても俺たちは生きていけない。 だったら何がなんでも地上に登って外の景色を見てやった方がマシじゃないか?」 除染員の給料は地下都市の中でも特に薄給である。 誰でもなれる分、命の保証はない。 保険はかけられるがその分、給料から天引きされるのである。 「…わかってるわよ。 アタシだって、幼い弟達を食べさせていくためになったんだから!」 自暴自棄になりながらもマーサは己を鼓舞し、前へ進む。 瑛一も年老いた母と二人暮らしで背に腹はかえられぬ状態だった。 恐らく、ミハイルも同じ状況で入隊を志望したのだろう。 同僚二人の事情はよく知らない。 だが、どんなに絶望しても腹は空くし、死にたいと思っても愛する人がいる限り死にきれない。 本当にこの世は残酷だと瑛一は弱音を胸にしまうのであった。 【To be continued】
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