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第16話 スキル進化の条件
どれくらい意識を失っていたのか。はっと目を開けると、まださっきの海岸で夕陽が水平線の向こうに沈みかける所だった。
いつの間にか服は着ている。
「あ、起きたのか?大丈夫だとは分かってるけど、ちょっと心配しちまったよ」
すぐ隣に寝転がったまま、上半身だけ起こして俺を覗き込むヒューゴ。
「え…俺、どうなったんだ」
体が気怠い。まだ頭がぼんやりしている。
「いやあ…ごめん、俺もあまりに興奮してなんか、滅茶苦茶やった気がするし、その、お前もあり得ないくらいなんか、可愛かったし…気が付いたらお前意識無くなってて、焦ったわ」
バツが悪そうに笑いながら言うヒューゴに、俺はだんだんはっきりして来た頭でさっきの事を詳細に思い出すと同時に、全身から火が出そうになった。
あまりの気持ち良さに頭が馬鹿になって、何かとんでもない事を口走ってしまった気がするし、女みたいにひたすら喘いでた気がする。
いや、気がする、じゃない。確実に言ってたし、やってた。
「~~~~~!」
俺はたまらなくなって、ヒューゴに背を向けて頭を抱えた。
「うわあああ…俺、俺…!」
「なんだ、恥ずかしいのか?」
「恥ずかしくないわけないだろっ!」
思わず逆切れしてしまう。
「ははっ、ユキト意外と初心だよなあ」
またヒューゴは笑うが、いや、お前こそどうなってんだよ?
「なんでそんな余裕な態度なんだよ?」
思わずじろっと見てしまう。くそ、狼狽えてるの俺だけかよ。
ヒューゴは、ふ、と笑って俺を見ると、急に俺に覆い被さって来た。
「え?ちょ?」
ヒューゴの匂いと体温に包まれてさっきの情事が蘇り、一気に心臓が高鳴って汗が出て来る。
「余裕に見えるのは、俺、分かったからかな」
「っ…」
耳元で低い声で言われて、さっきの余韻でゾクッとしてしまう。
「俺、ユキトの事が好きだ」
身体を離して、上から俺を覗き込みながら言う。
その緑色の目は嘘や冗談を言っている目じゃなかったから、俺は、そんなのセックスしたから気の迷いだろ、とか言えなくなった。
何か言おうとして口を開いたまま、何も言えなくて、ただ黙ってヒューゴの目を見つめる俺に、ヒューゴは続けて言った。
「お前はそんなの、体繋げたから一時の気の迷いとか思ってるかもしれないけどな、違うんだ。俺、最初からお前の事、特別に思ってたんだよ。それが分かったから、今までの自分の行動にも納得した」
「…」
呆けて口を半開きにしたままの俺がおかしかったのか、ヒューゴは、ぷっと噴き出す。
「何て顔してるんだよ。とにかくな。俺はお前の事を他のやつとは違う意味で好きだったから、ああいう事をしてたんだ、って気付いたんだよ。俺だって、他のやつにはあんな、添い寝したりだとか、抱き締めたりなんて事、した事なかったんだからな」
「そう、なのか…」
やっと、それだけ言う。―――そうか。あれは、やっぱりヒューゴにしてみても、普段はやらない事だったんだな。
それなのに、俺には―――ってやっぱり、それだけ俺の事を思ってくれてたのか…
さっきの、ユキトの事が好きだ、って言葉と一緒にその事実が俺に染み込んで来て、急にまた顔が熱くなって来た。胸がドキドキして、凄く、嬉しいと感じてしまう。
すると、熱くなった頬をヒューゴがこの上なく優しく撫でて来る。
「だからな。俺、お前とこうなれて物凄く嬉しい。スキルコピーの為って理由だったけど、俺はそんな理由が無くても、お前とこうなりたいし、これからもずっと一緒に居たい」
ヒューゴの心が本当に真っ直ぐ伝わって来て、俺は胸が熱くなった。
「ヒューゴ…」
俺は赤く上気した顔で、ヒューゴを見上げた。
こんな、真っ直ぐで真剣な愛の告白、大人になってから初めてだ。
俺に寄って来る奴らなんて、俺の見た目に惹かれたり、打算や裏がある奴らばかりだった。
なのにヒューゴには何の打算も裏もない。
純粋に俺のことを気遣って、寄り添って、俺の全部を知っても一緒に居たい、なんて…
嬉しい。嬉し過ぎて胸が苦しい。俺だってヒューゴの事が好きだ。
でも、やっぱり、どうしても、怖い。
以前の俺だったら、きっとここで黙って、何一つ相手に伝える事はなかっただろう。
けど、今の俺はもう正直に、思ったまま生きると決めた。
だから俺は言った。
「ヒューゴ、俺、お前がそんな風に俺の事思ってくれて、本当に嬉しい。俺、大人になってから誰かに打算や裏もなくそんなに真剣に想われたり、それを伝えて貰った事なんて無かったから…俺もヒューゴの事は好きだ。ずっと一緒に居たいとも思う…けど、俺、昔好きになった相手と酷い別れ方して…誰かとそういう関係になる事が、まだ…怖いんだ」
俺が高校時代の辛かった体験を話すと、ヒューゴは黙って聞いていたけど、俺を抱き締めて言った。
「俺は絶対にそいつみたいな事はしないし、言わない。誰に何を言われても、お前の事を手離したりもしない。ユキトが安心するまで、何度でも好きだって伝えてやるし、お前が安心するまでいくらでも待つ」
そして優しく微笑んで、
「…でも、嫌じゃなかったら…こういう事してもいいか?」
そう言って、近付いてくるヒューゴの顔に、俺は意図を理解して目を閉じた。
俺の唇にヒューゴの唇がそっと触れ合わされる。さっきの激しいキスが嘘みたいに、優しい、柔らかいキス。俺の事、大事に思ってる、っていうのが伝わって来るみたいな…
胸がぎゅっと苦しくなった。でもそれは苦痛じゃなく、甘くて、痺れるような気持ち良さで俺を蕩けさせた。
俺はヒューゴのキスを受け入れながら、両手でヒューゴの赤い、焔みたいな髪の毛に指を通して梳いた。柔らかくて気持ちいい。
胸の疼きに導かれるように、ヒューゴにもっと触れたくて、髪の毛から首筋、俺より大きな、引き締まった背中に手を回した。
「―――うう。なんか、もう際限なくやっちまいそうだから、この辺にしとく」
ヒューゴがそう言って、振り切るように俺の横に転がる。
俺もやばい。一度受け入れたからなのか、ヒューゴと触れ合っているとすぐに疼いて来てしまう。まるで思春期のガキのように朝から晩まで盛ってしまいそうだ。
特に今の体は死なないし、ダメージを受けてもすぐ回復する。
さっき散々交わって、普通ならぐったりと疲れてあちこち痛くなっていてもおかしくないのに、意識を取り戻した後は、何事も無かったかのように体は軽かった。
良いのか悪いのか。確かにヒューゴの言う通り、際限なくなってしまいそうだ。自制しないと。
「そういえば、スキルの方はどうだ?コピー出来たのか?」
「…ああ、そうだな…ちょっと待って」
ヒューゴに聞かれて、俺はスキルをチェックした。
こ、これまでの出来事が衝撃的過ぎて、今の今まで忘れてたとか、そんな事ないんだからな。
えーと…あ、確かにある!これがヒューゴの持つスキルか?
『火属性魔術スキル フレアサーヴァント』ってのと、『スキル マジックブラスター』っていうのが増えている。
ん?スキルの名前の後に何か付いてるな。何だこれは?
フレアサーヴァントの後ろに3/30、マジックブラスターの後ろにも3/20って表示だ。もっと詳しく見てみると…『限界値まで達するとスキル進化する』だと?
この3/30みたいな数値が30/30になれば、スキルがもっと強力になるって事か?
「…何か凄い事になってるんだけど」
俺が呟くと、ヒューゴが「え、なになに?」と体を起こす。
説明してやると、
「ちょっと見せて貰っていいか?」
と、鑑定で俺のスキルをチェックし始めた。
「へえーホントだ。俺のスキルと同じスキルがある。それに確かに数字も付いてるなあ。他のスキルに変化はあるのか?―――ん?なんだこれ、他のにも殆ど数字付いてるぞ」
「えっ、気付かなかった」
「付いてないのはお前しか持ってない『スキルコピー』ってやつだけだな。この数字って一体何なんだ?『限界値まで達するとスキル進化する』ってなんか凄くねえ?」
「俺にもよく分からないけど、そりゃ進化した方が強いだろうな。けど、数字が増える定義がわか…」
言いかけて、ハッとする。
「…ヒューゴ、その…さっき俺に何回、出したんだ?」
「え?えーっと…3回くらい?」
ヒューゴはどことなく、目を泳がせながら答える。
「なっ…3回も出してたのかよ!ほんとにどうなってるんだお前は?」
食欲だけじゃなくて性欲も強いってか!?
はあ…俺はジト目でヒューゴを鑑定して、自分のスキルと被ってるやつをチェックした。
…やっぱり、ヒューゴと被っているスキルだけ全部3/○○って表示になってる。
という事はだ。
「この数字、たぶん中出しの回数だ…」
「…へ?」
何だかもう色々と脱力して、俺はがっくりと項垂れた。隣でヒューゴは爆笑していた。
やっぱりこれ、とんでもないクソエロスキルだな!絶対これ、ネタで創られたスキルだろ!!
それを実践させられる俺の身になれ!!
つまりこの『スキルコピー』は、コピーしたスキルが重複していても、セックスして中に出す度に回数がカウントされて行き、それが限界値に達すればそのスキルが進化する、って代物らしい。
確かにそれなら、魔王に通じなかったヒューゴのスキルや、他の転移者達のスキルも進化させて、魔王を倒せるまでになるかもしれない。
けど、その方法がもう、エグい。エグ過ぎる。フレアサーヴァントが3/30って事は、最低でもあと27回は中に出されろって事だろ。
まあ…確かに気持ちいいし…恥ずかしいけど、ヒューゴとするのは心も満たされて…
けど、無限収納に媚薬が入っていた事といい、回数が設定されてる事といい、何かもう全て、『あいつ』のゲームの盤上で踊らされてるみたいで、そこは胸糞悪い。
複雑な気持ちで俺がむすっと黙り込んでいると、ひとしきり笑いまくったヒューゴが、はあっと呼吸を整えて俺に笑いかけた。
「いやあ、ホントとんでもないスキルだな。けど、これで魔王を倒せる可能性が出て来たってわけだ」
「まあな。面白くないけどな」
むすっとしたまま言うと、ヒューゴはちょっと戸惑った顔をする。
「…え?俺とするの嫌だった?」
「…違うって。スキルの特性とか、さっき無限収納に媚薬が入ってたのとかさ、絶対あいつが面白がってるって思うと、それがムカついてさ」
そう言うと、ヒューゴも納得したように頷いた。
「ああ、まあ確かにそこはな。…でも、俺はあいつが俺らの事面白がってるとしても、それでもいいけどな。あいつの気まぐれのおかげでユキトと会えたし」
優しい蕩けるような顔で見つめられて、どきっとする。
「…ま、まあ俺も、それは良かったと思ってるけど」
「そっか、ユキトもそう思ってくれてて嬉しいよ。それに―――」
ヒューゴが言いながら、俺の上に被さって来た。
「て事は、際限なく、してもいいって事だもんな」
そのまま、また俺の唇を塞ぐ。
「んんっ!」
ダメだって!と言おうとしたのに、くちゅくちゅと舌を絡められ、口内を愛撫されると、俺の体はまた甘く蕩け始めてしまった。
「あっ…」
「んー…可愛い。ユキト」
ちゅ、ちゅ、とキスしながら首筋から下へとさがっていくヒューゴの頭を、力の抜けつつある両手で掴みながら、俺は最後に残った理性を振り絞った。
「も、もう今は終わり!あと27回ここで全部終わらせるつもりかよ!!?」
「えー?んー、さすがに今日中に27回は厳しいかもなあ。けどあと5回は行けそうな気がするんだけど。いや、そういえば俺ら死なないし、すぐ復活するし、やっぱ今日中に27回行けるかもな」
「―――嘘だろ!?」
真面目な顔して言うヒューゴに俺は愕然とした。そして「体は無事でも俺の心が死ぬ」と喚いて、何とかこの場でこれ以上するのは思い留まらせた。
「分かったよ、んじゃあとは今日の夜のお楽しみにしとくな!」
そう言って俺の頬にキスして来るヒューゴに、
…夜またやる気かよ…
俺はぴくぴくと顔が引き攣るのだった。
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