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20話 ケレスの街へ
2021/11/16加筆修正で文字数が増えたため、中途半端になった部分を新しく挿入する形で足しました。
このあとの話からかなり最初とは筋が変わってきますので、一度読んだ方にも読んで頂ければ嬉しいです。
******
ルイに、神殿の食堂へ案内してもらった。
今までずっと部屋で食事を摂っていたから、この食堂に来るのは初めてだ。
「勇者様方の門出の為に、出来る限りの食事を用意しました」と神官長が言ってくれたように、いつもより数段豪華なメニューが食卓には並んでいた。
クリームソースのような物が掛かった、こんがり飴色に焼きあがった肉の塊とか、ブラウンソースで煮込まれた何かの肉とか、色とりどりの野菜や豆が詰められた鳥の蒸し物とか、今日は肉系のメニューが多い。
「うっわ、凄え美味そうだな!俺達の為にみんなありがとうな!」
ヒューゴが目を輝かせて礼を言い、俺もそれに続いた。
「俺、殆ど何もしてませんが・・・凄くお世話になりました。ありがとうございます」
「とんでもございません。至高神エオルの御遣いであられる勇者様方に奉仕出来るなど、この上なく名誉な事でございます。それでは皆、祈りを捧げましょう―――」
神官長がそう言うと、居並ぶ神官達は皆、目を閉じて何かの聖句を唱えた。
何となく、こういう雰囲気は苦手だ。馴染みが無いし、どうしていいか分からない。ちらっとヒューゴを見ると、俺と同じように思っているみたいだ。ただ、いつもより神妙な顔をしてじっとしているのが妙に可笑しい。
聖句の祈りが済んで、神官長が「それではお食事をどうぞ」と言ってくれた時はホッとした。
食事はどれも美味しかった。スキルを使いまくって疲れたせいなのか、いつもより空腹を感じていた。
「美味しいですか?良かったです!」
途中で給仕に来てくれたルイが、にこにこと俺とヒューゴのコップに水を注いだが、水差しを持ち直すと少し顔を曇らせた。
「でも、お別れなんですね・・・僕、寂しいです。あっ、もちろんお二人には大事な使命があるんですから、引き留めるつもりなんて全然なくて・・・気にしないで下さいっ」
「はは、別にこれで最後って訳じゃないだろ。魔王倒したらまたこっち来るから、その時は盛大に出迎えてくれよ!」
ヒューゴに頭をくしゃくしゃ撫でられて、寂しそうな顔をしていたルイは、ぱっと笑顔になって頷いた。ルイが立ち去ると、俺は聞きたかった事を真向かいに座っている神官長に聞く事にした。
「神官長は、ケレスの街にいるっていう転移者の事は詳しく分かりますか?」
壮年の、薄茶色の髪の毛に少し白髪が混じり始めている神官長は、口元をナプキンで拭くと、首を振った。
「そうですね・・・実は名前も容姿も分からないのです。神殿では時折、至高神エオルから神託が授けられるのですが、いつもメッセージはとても短いのです。最初は『魔王を倒せる者を送った』でした。それから何度か同じ神託があり、今回はユキト様がここにいらしてしばらくしてから、『これが最後の者だ』と神託がありました」
俺とヒューゴは頷きながら聞いていた。
「御遣いが降臨する場所の神託はありましたので、その街の神官達は神託が降りた後、総出で勇者様方を探し出したのです」
「ふーん。確かに俺がここに来てすぐ神官達がやって来たな」
ヒューゴが大きな肉の塊を口に入れながら言った。
神官長の話によると、ケレスに転移者が現れたのは3か月位前の話らしく、居所の分からないもう一人の転移者が来たのは1年前らしい。意外と年月が経っていない事に俺は驚いた。
最初に聞いた通り、この世界の移動方法ではケレスはかなり遠いし、神官達は神殿を出て旅をする事がない為、ケレスの転移者がどんな人物なのかは詳しく分からないらしい。
ただ確かなのは、ケレスの神殿に居るだろう、って事だけだ。
まあ、いいさ。行けば分かる。俺は余計な事を考えないよう、今は食事を楽しむ事にした。
♢♢♢
翌朝、俺とヒューゴは身支度を整えて神殿の扉の前に立っていた。転移だし、特に旅の準備も要らない。部屋から跳んでも良かったけど、見送りたいっていう神殿の人達の要望に応えて、そうした。
「んじゃあ、世話になったな!魔王倒したらまた寄るから、元気でやっててくれよ」
ヒューゴがいつもの軽い感じで言うと、神官長は微笑んで「至高神エオルの加護がありますように」と頭を下げた。
ルイをちらっと見ると、涙を必死で堪えていたけどぽろぽろと零れていて、可愛いような可哀想なような、複雑な気持ちだった。
俺も皆に軽く頭を下げると、ヒューゴに向き直った。
「じゃあ行こうか」
「おう!」
地図でもう一度確認してケレスへ転移する。
びゅん、と空間がブレる感じがして、一瞬でジルヴィアとは違う空気感、匂いの場所へ到着した。
「へえー、ジルヴィアとは全然違うな!」
周りを見回したヒューゴが言う。
一言で言ったら、ヨーロッパの山岳地帯にある街、という感じだ。
海辺の街だったジルヴィアとは違い、潮の香りもしないし、周りを鬱蒼とした森に囲まれていて、石造りの落ち着いた重厚な街。気のせいか、街の空気に針葉樹のすーっとするような匂いも感じる。
そんなケレスの街の入口辺りに俺達は居た。大きなアーチ状の門があり、目の前には真っ直ぐ街の中心へと続くだろう石畳の道と、道の両側に木と石で出来た家が並んでいる。最初の街フィネアとは地図上では近かったのに、東南アジアっぽかったフィネアとも全然違う雰囲気だな。
突然現れた俺達を、周りにいた人々がぎょっとしたように見ていたが、「ひょっとして―――」「――――勇者様?」と口にするのが聴こえた。
ヒューゴがこっちに注目している人達に向かって、「そうなんだよ、俺らこの街の転移者に会いに来たんだけど、誰か、どこにいるか知らねえか?」と尋ねると、
一番近い所に居た16~7才くらいの少年が声を上げた。
「ほ、本当に勇者様なんですか?お、オレで良ければ案内させてもらいますけど!」
金髪で愛嬌のある顔をした少年は目を輝かせている。まるで芸能人に会った一般人みたいな反応だな。
「おう、ぜひ頼むわ」
ヒューゴが言うと、少年は頬を紅潮させながら道の向こうを指差した。
「わ、分かりました!こっちです」
俺達が歩き出すと、周りの人達は崇拝と憧憬の眼差しで注目している。やっぱりこういうの、落ち着かないな。
少年はアインと名乗った。このケレスの街の転移者はやっぱり神殿に居るらしい。
「勇者様に会っただけじゃなくて、こうやって案内まで出来るなんて、オレ、運を全部使ったかも!でも光栄です!あの魔王と渡り合える方たちとこうやって話せるなんて、めっちゃ興奮します」
最初は緊張でどもりがちだったアインは、しばらくすると慣れたのか素に戻ったらしい。話すと年相応に明るくて、思った事を素直に口に出すし、正直そうなやつだな、と思った。
「あんまり持ち上げんなって。俺らだって、普通の人間なんだからさ。ちょっと死なないだけで」
「えっ、死なねえの?すげえ!!あ、いや、そうなんですか!?勇者様の事、オレ達よく分かってないんですよ。神殿にいる勇者様はあんまり外に出て来ないし。あ、そうだ!これ聞きたかったんだ!ヒューゴ様とユキト様は、もう魔王と戦った事あるんですか?」
アインはヒーローに会えた子供のように、目をキラキラさせながら色んな事を質問して来て、面白がったヒューゴが答えてやると、一つ一つ感激して「すげえ!」だの「うおお!」だの大げさなリアクションで喜んでいた。
顔は全然違うけど、また、ラノベ・ゲーム好きの後輩のリョーマを思い出してしまった。あいつ、元気にしてるかな。
「オレ、今日の事みんなに自慢します・・・!」
アインは嬉しさを噛み締めているかのように、両手をぎゅっと握り締めて笑っていた。
「ま、喜んでくれたんならいいけどな。結構、神殿って歩くと遠いんだな」
ヒューゴが辺りをキョロキョロしながら言う。門の所から真っ直ぐ伸びていた石畳の道を、かなり歩いて来たけど、確かにまだ着かない。
「あ、そうなんですよ。ケレスの神殿は街から離れた高台にあるんです。ほら、あそこですよ」
アインが指差す方を見ると、今俺達がいる街の中心っぽい所から、かなり離れた丘のような所に城のようなものが建っていた。
周りにはそれ以外何もなく、俺は行った事はないが、太客の女社長が見せて来たアイルランドの古城の写真を思い出して、それと似てるなと思った。
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