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25話 ヒューゴの不安
「君がヒューゴと想い合っている事は分かっているけど、少しでも僕のことも好きになってくれたら、凄く嬉しい」
「…………」
俺は何を言っていいのか分からなくて、少しの間、黙ったままだった。
でも、正直に思っている事を伝える。
「それだけど……俺はヒューゴの事を好きだから、ロシュの事をそういう意味で好きになる事はないと思う……俺はそんな、浮気性じゃないし、一度に何人もの人を愛せるとは思えないんだよな。ロシュも、自分と付き合ってるやつが、他の人の事も好きだなんて嫌じゃないか?好きなやつには、自分の事だけ好きでいて欲しいだろ?」
ロシュはそれを嫌な顔もせず聞いていたが、微笑んで言った。
「そうだね、自分の愛する人が自分だけを愛してくれるって、理想だよね。それでも僕はユキトのようには思わないんだ。0か100みたいに、僕の事だけを愛せないから付き合えないって言われる位なら、他の人の事も愛してるけど一緒に居たいって言われる方が100倍いいと思う。僕はユキトがヒューゴの事を愛していても、僕の事も愛してくれるならそれで充分嬉しいし、幸せだよ」
「え……」
衝撃で、ロシュの顔を見たまま固まった。
俺は、自分に縁のなかった『愛』というものを、どこか神聖視しているのかもしれない。
それはたった一つしかなくて、大事に大事に、たった一人の相手とだけ分かち合うものだとどこかで思っていた。
それが俺の中の『愛』の定義だった。
だけど、ロシュの『愛』の定義は俺のとは全然違っている。
そんな形でも嬉しいし幸せ、というロシュの言葉に、俺は自分の価値観を大きく揺さぶられた気がした。
「だからユキトも今からそんな風に、ヒューゴの事を好きだから僕の事を好きになれない、なんて決めつけてしまわないで欲しい。人の心はすごく、自由なものだよ。少し前までこうだ、って思ってた事でも、何かのきっかけで180度真逆に変わったりする。自分の心を縛るのは、唯一、自分自身の思い込みだけなんだ。僕はユキトに自由に色んな可能性を想像して欲しいんだ。だって、その方がずっと幸せになれるからね」
そう言って、にこっと笑うロシュの顔を、俺はただ見つめる事しかできなかった。
「ごめんね。君を混乱させたり困らせたいわけじゃないんだ。ユキトがしたいようにしてくれていいんだからね。僕はそろそろ戻るけどユキトはどうする?」
そう言われて、ようやく我に返った。
「あ、俺は……もうちょっとここにいるよ……」
「うん、じゃあ夕方になると風が冷たくなるから、その前に戻った方がいいよ。それじゃあまたね」
自然な仕草で俺の頬にキスして、ロシュは去って行った。
♢♢♢
いつの間にか、ロシュの言った通り風が冷たくなって、空がサーモンピンクに染まって来ていた。ぼうっとしていて、いつの間にこんなに時間が経ったのか分からなかった。
風邪なんか引くことはないだろうけど、と思いながら部屋に戻る途中、隣のヒューゴの部屋の扉が目に入り、一瞬、ノックするか迷う。
自分の中にまだ形を持たない何かが渦巻いていて、それが何なのか、ヒューゴに何を言いたいのか自分でも分からない。かと言っていつものようにただ、抱き締めあう、という気分にもなれずに、俺は途中まで上げかけた腕を下ろして、自分の部屋の扉を開けた。
♢♢♢
sideヒューゴ 不安
ジルヴィアの海辺で初めてユキトと体を繋げた時、俺はユキトが好きなんだと気付いた。
誰かを愛おしい、触れたい、大事にしたい、ずっと傍に居たい、なんて思ったのは初めての事だった。
体を繋げるだけなら、エクシリアでいくらでもした事がある。
だけどそれは、単に自分の欲望を発散させる相手が欲しかっただけで、その場限りで終わるようなものだった。
次も、その次も会いたい、なんて思った事もねえ。
だけど、ユキトのことだけは、初めて、ずっと傍にいて抱き締めていたい、と強く思ったんだ。
初めてユキトを抱き締めた時、俺はまだ自分の気持ちは自覚していなかったし、あの時はとにかくユキトに申し訳なくてただ夢中で宥めようとしただけだった。だけど、抱き締めたユキトから強張っていた体の力が抜けて、くったりと俺に全部を預けて来たのが、なぜだか分からないけど、すごく嬉しくて、心が暖かくなった。
その時は、俺に対するバリアみたいな物が無くなった事に対する、嬉しさだと思っていた。
心を許してくれたことが嬉しいんだと思っていた。
だけどその後も、魘されるユキトを抱き締めて宥める度、可哀想に、と思う一方で、愛おしい、と思う気持ちが湧いて来て。抱き締めていると俺まで胸が暖かくなるような気がして、いつしか一緒のベッドで眠って、いつもくっ付いているのが当たり前みたいになっていた。
いくら俺だって、そこまでの事を他の奴にしてやった事なんかねえ。だけどユキトには、俺がそうしてやりたかった。
男同士でくっ付いてる奴らは、エクシリアにも普通にいた。だけど俺は男に興味を持ったり、ヤりたいと思った事はなくて、自分は男には興味ないタイプだと思っていた。
だからユキトにそういう気持ちを感じている自分に戸惑って、なんかの間違いだろ、気のせいだこんなの。って一度は否定したんだ。
でも、ユキトのスキルのとんでもない特性を知って、躊躇いながらも俺に口付けるユキトに応えた時、俺は自分がこれまでしてきた、どんなセックスより、ユキトとの行為に興奮して、昂って、夢中になっちまった。
俺のでユキトの中を掻き回して、ユキトの黒い瞳が熱っぽく潤んで、俺の名前を呼ぶのを聞いたら、止まらなくて。
俺の体の下で喘ぐユキトが可愛くて愛しくてたまらなくて、そんな気持ちが爆発して、自分がどうにかなるんじゃないかって怖くなるほどだった。
そして、やり過ぎてユキトの意識がなくなったあと、俺は自分がユキトの事をどうしようもなく好きなんだと気付いて、気付いたらもう、すぐにでも伝えたくなって、さっきの激しい行為で失った意識を取り戻したユキトに、そのまま言ったんだ。
ユキトは過去に好きだった奴との仲を引き裂かれて、最後にはそいつに酷い言葉を投げつけられて別れた事が、いまだに心の傷になってるみたいだったけど、そんなの、俺が癒してやる。俺は絶対にユキトを手離したりしないって約束した。
ユキトを好きだって自覚してからするセックスは、何度しても足りないくらい俺を燃え上がらせて、「お前、性欲強すぎ」って、ちょっとユキトに怒られちまった。
それで結局すぐ、ユキトのスキルが限界突破して、魔王を倒せるかもしれないってなったんだけど、さすがに魔王はしぶといよな。それでも倒しきれなくて他の転移者にも協力を求めようって事になったんだけど……
俺は複雑だった。
だって、他の転移者に協力して貰うってことは、ユキトがそいつとセックスして中に出される、しかも何十回も、ってことだろ。
俺以外のやつに組み敷かれて、いつも俺に聞かせてくれるあの可愛い声で、そいつの名前を呼ぶのかと思ったら、滅茶苦茶、胸がもやもやする。
それでつい、黙ってられなくてそれを言っちまったんだけど、そしたらユキトは俺のことを好きだ、ずっと一緒にいたい、恋人として、って言ってくれて……
さっきまで気持ちが重くてもやもやしてたのに、一気に、物凄く幸せな気持ちになった。
そのあと、ユキトに俺の全部受け入れて貰って、全身が甘く痺れるような気持ちでしたセックスは、もう、最高だった。
けど、そんな時間はずっと続かねえ。
ケレスにやって来て、初めてユキト以外の異世界転移者に会ったんだが、そいつは今まで見た事もないような、とんでもなく綺麗な奴だった。ちらっとユキトの反応が気になって横目で見たら、ユキトも目を瞠ってじっと見てて……それを見たらまた胸がもやもやした。
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