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38話 最後の転移者を捜して
それから一週間も経っていないが思った通りというか、予定より早く、ロシュからコピーしたスキル『フリーズサーペント』が限界突破した。
そりゃそうなるよな……あんなに、何度も何度も……
ロシュの奴、元からあんなに性欲強いのか?
「ユキトが可愛すぎるから昂ってたまらないんだ」なんて言ってたけど、今の俺の体が普通じゃないから何とかなってるんであって、あれを一人で相手するのは大変だぞ。確かに浮気してしまうのも無理はないかもな、なんて思ってしまった。
それはともかく、これで、ヒューゴからコピーした『フレアサーヴァント』『マジックブラスター』と合わせて、3つの攻撃スキルを持った事になる。防御の方は『絶対防御』と『常時魔力バリア展開』が限界突破しているし、これで魔王のダークレイは防げる。
ロシュもトール・シフォスの力を一日に一回だけ全解放出来るようになっているし、今度こそ倒せるかもしれない。
一つ気になるのは、『スキルコピー』の詳細な説明欄に、『繧ケ繧ュ繝ォ蜷域? 2/3』という項目が出来ている事だ。
文字化けしているが、2/3という数字が付いている事から、これも成長途中の何かだと思う。でも今のところ何かは分からない。
「それじゃ、久しぶりにやるか!」
ヒューゴがそう言うと、
「ああ。僕はいつでも大丈夫だ」
ロシュも#黒雷神の剣__トール・シフォス__#を手にして頷く。ちなみにあれからトールの奴は現れていない。
「よし、じゃあ行くぞ」
俺は深呼吸を一つして『転移』を発動した。
久しぶりに見る、真っ白な世界。猛吹雪で肉眼では何も見えないが、スキルを使えば白い雪壁の向こうに相変わらず『魔王』がじっと蹲っているのが見えた。
「やっぱり動かないね。相変わらず得体が知れないな」
ロシュが、黒い鞘からスラリと銀の刀身を引き抜いた。
そして細く息を吐き出すと、その体から冷たい冷気のような魔力が溢れ出す。同時に手にした黒雷神の剣も光り始めた。
短距離転移で魔王のすぐ傍まで跳ぶと、ザビを斬った時のように上段から眩く光る黒雷神の剣を振り下ろす。
――――音もなく、まるでバターを切り分けるように魔王の体が半分に切り裂かれた。断面はただ真っ黒で、生きているのか死んでいるのか全く分からない。
「ヒューゴ!」
「ああ!」
ロシュがすぐに短距離転移で俺達の方に戻って来ると、俺とヒューゴが同時に『フレアサーヴァント』、ロシュが『フリーズサーペント』を放つ。
「くぅ!」
バァン!と極大の雷が目の前に落ちたような轟音と衝撃で、『常時魔力バリア展開』があっても本能的な恐れで身がすくむ。
目を眇めて魔王の様子を伺うと、家3軒くらいの大きさだったのが小型車くらいの塊になり、横倒しになって脚なのか、触手なのか―――が密集した裏側を晒していた。それが蠢く様は鳥肌が出るほど気持ち悪い。
そしてその黒い体表はまるで沸騰しているかのように、ジュブジュブと音を立てて泡立っていた。
「大分削れた!畳み掛けるぞ!」
「分かった!」
ヒューゴが叫び、さっきと同じく3人でスキルを使った。が、おかしい。同じ威力なのに、今度はさっきのような手応えが無い。それどころか、小型車くらいの大きさだった魔王は、表面を泡立たせながら膨らみ、ほぼ元の大きさにまで戻っていた。
泡立っていたのは再生の過程だったのか。
「くっ、なんて再生能力だ。しかも―――何故だ、スキルへの耐性が出来ている!?」
ロシュが『鑑定』結果に驚愕すると、
「ああ、『炎属性攻撃耐性』と『氷属性攻撃耐性』って奴が出来てやがる!どうなってんだよ!?」
ヒューゴも『マジックブラスター』での攻撃に切り替えながら叫んだ。
本当にどうなっているんだ。前回まではこっちの攻撃にそんな対応なんてしてなかった。
魔王も学習するのか?
俺達が動揺しているのを狙ってか、『ダークレイ』の乱射が始まった。
俺にとっては、もうダークレイは意味のない攻撃だけど、ヒューゴとロシュにとっては違う。絶対防御も貫く、即死級の攻撃だ。数発は耐えられても、いずれ躱し切れなくなったら消滅させられる。
その前に倒し切ってやろうと、俺とヒューゴは無属性の『マジックブラスター』、ロシュは剣での攻撃に切り替えたが、一番最初ほどのダメージは与えられず、あっという間に元の大きさまで戻ってしまった『魔王』に打つ手がなく、転移して退却するしかなかった。
☆☆☆
ケレスの神殿の中庭に跳ぶと、俺達は草原に転がって荒い息を吐いた。
「……クソッ!妙な耐性なんて付けて来やがって!考える頭なんかなさそうな癖によ!」
ヒューゴが悔しそうに言う。
「再生能力の高さが問題だな。最初に総攻撃した時に消滅させられれば良かった。だけど、炎属性のフレアサーヴァントと、氷属性のフリーズサーペントに耐性を付けられてしまった以上、それも難しい……全解放したトール・シフォスで斬っても再生したし……」
ロシュがそう言って、溜息を付く。
耐性を付けられてからというもの、いくら攻撃しても大したダメージは与えられなかった。『マジックブラスター』みたいな、無属性の攻撃なら少しはマシだったが……あとは耐性の付いてない他の属性で攻撃をしてみれば、また違うかもしれない。
行方不明の最初の転移者が、ヒューゴやロシュとは違う属性のスキルを貰っている可能性は高い。というか、俺達の事をゲームの駒として楽しんでいるエオルの事だ。全員別の属性になるようにしている、と考えた方がしっくり来る。
やっぱり、どうしても最後の一人を探し出して協力して貰わないといけないよな……
「最後の転移者を探そう」
俺がそう言うとヒューゴもはぁ、と溜息を付いて同意した。
「ああ……まあ、そうなるよな」
「最後の転移者か……どこにいるかも分からないんだよね?知り合いでもないから探知でも探せないし。転移者の事はこの世界では神殿が詳しいだろうから、ひとまず神官長に話を聞きにいかないか?」
ロシュが言った事に俺も頷いた。
「確かに、神託みたいなもので俺達が来る事も知らされてたみたいだしな」
「よし。じゃあ行こうぜ」
神殿の中に戻ると、ロシュが神官長の執務室のような所へ案内してくれた。扉をノックすると、すぐにアルベルト神官長が顔を覗かせた。
「これは勇者様方。どうかされましたか?」
「ごめんね。ちょっと聞きたい事があるんだ。今いいかな?」
驚いた顔の神官長に、ロシュが微笑みかけると、
「もちろんです、勇者様方の頼みとあれば全てに優先しますので。私の部屋で宜しいでしょうか?」
「ああ」
ロシュが頷くと、神官長は一歩引いて部屋へ招き入れてくれる。
「今すぐお茶を用意させますので」
そう言いながらテーブルを挟んだソファに俺達を座らせてくれた。
「いや、いいんだ。それより、最後の一人の転移者について詳しい情報はないかな?今、行方が知れないんだろう?魔王を倒す為に、どうしてもその転移者に会う必要があるんだ」
ロシュの言葉に神官長は難しい顔をした。
「私としましても、勇者様方のお力になりたいのは山々なのですが、そうなのです。最初に至高神エオルからの御遣いが現れたのは、王都レオグランスだったのですが、しばらくして行方が分からなくなった、という話が神殿の情報網に流れて来ました。その後も捜索はしたのですが、1年経つ今も見つける事が出来ておりません。ただ、容姿などは王都レオグランスの神殿に行けば、分かるかと思います」
「ふーん、まあなんも手掛かりないよりマシじゃねえか?その王都レオグランスって所に行ってみようぜ」
ヒューゴが言うので、俺は思い出して『無限収納』から、最初の街フィネアで買った、この世界の地図を取り出した。そしてそれをテーブルの上に広げる。
「お?なんだこれ、地図か?」
ヒューゴが興味深そうに乗り出して覗き込むので、俺は地図の真ん中辺りを指さした。
「確かこの辺の……あった、これがレオグランスって街らしい」
「へえ、ケレスから近いんだね」
ロシュも地図を見て言う。
「今すぐ行けると思う。どうする?」
俺の言葉にヒューゴが片頬を上げて笑う。
「もちろん、すぐ行くだろ!」
「ああ、僕も異論はないよ」
ロシュも頷いて、神官長の方を向いて一礼した。
「短い間だったが、世話になった。ありがとう。他の皆にもよろしく伝えてくれ」
アルベルト神官長は焦った声を上げる。
「い、いえ、とんでもありません!私共の方こそ、勇者様方のお世話をさせて頂けた事は、この上ない喜びでございました。皆も同じ気持ちです」
「俺らも世話になったよ、ありがとな」
ヒューゴが軽い調子で言い、俺も軽く頭を下げておく。
あたふたしながら頭を下げている神官長から少し距離を取り、俺は「じゃあ行こう」と、『転移』を発動した。
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