九月十一日

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九月十一日

 繰り返し繰り返し崩壊するツインタワーのニュース映像を見ながら、わたしは彼氏から電話一本で無造作に捨てられていた。  まだ五歳ぐらいのころにこんな大規模なテロ事件があったことも、たった二ヶ月とはいえ、つきあってきた男にふられたことも、どちらも現実感が喪失していてどう反応していいのかわからなかった。  実感、空白感、それらが頭のなかを占拠している。ゲーム友達のセシルに電話をかけてみた。セシルの本名は知らない。セシル一人で住んでいるので、電話での呼び出しもセシルでいい。 「みるくのその現実感の無さ、こないだアレがサ(しゅう)したからじゃ?」  サ終とは、サービス終了、つまりゲームならゲームの運営終了の略語、というかスラング。彼氏はわたしが渋谷や銀座に興味がない、そのくせ秋葉原や池袋、神田神保町のほうが楽しい、そんなところも嫌だったのかもしれない。古書店も中古CD、レコードのお店もない街などわたしには必要ない。  もうさっきの会話すら忘れている。テレビの画面ではまたツインタワーに旅客機が突っ込んでゆく。  ──そうかもしれない。でもさ、あのときはいかにもサ終しますって雰囲気が漂っていたじゃない。 「いやわたしたちはけっこうディープにハマっていたよ。なんとかロスってやつだよ。みるくはそういうの強そうだから、没入感とかさ。よけいロスト感があるんだと思うな」  そうかな? たしかにわたしはのめり込む性格ではあるけれど。それに、今の秋葉原は昼間のうちなら、わりとデートコースにもなると思う。夜はメイド喫茶のメイド客引きが酷いが。秋葉原でデート、そんなことを言おうものならセシルは笑うけれども。
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