僕の幸

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 僕は今までモテたことなんて一度もない。  顔は良くないし、髪は天然パーマだし、身長だって高くない。見た目で勝負できるところが一つもない。  だからって別に中身が良いかといえばそうでもない。  優柔不断で、人の顔色を伺ってばかりで、マイナス思案。根暗って言葉がピッタリだ。  でも、こんな僕だって女の子に興味はある。デートとかしてみたい。  春にはお花見、夏は海水浴、秋はピクニックに行って、冬はイルミネーションを見る。ベタなのは分かっているが、経験がないのでこれくらいしか思いつかない。でも憧れのシチュエーションでもある。  あるとき、こんなネット記事を見つけた。 〈ペットを飼うとモテる!〉  そこには「動物に優しくする姿に女性はグッとくる」とか「動物を守る姿は男らしさの象徴」などと書かれていた。  今までは「今の流行りのヘアスタイルはこれ」とか「こういう趣味を持てば女子うけバツグン」みたいなものを間に受けて挑戦してきたけど、どれも自分に合わなくて成功したためしがない。  だけど、ペットならいけるかもしれない。僕はもともと動物が好きだし、ありがたいことに今住んでいるこのマンションはペット飼育が可能だ。  条件が良くて選んだ物件だけど、もしかしたらこれも運命かもしれない。  もし飼うとしたら何がいいだろう。昔実家で飼ったことがあるのは犬と金魚だ。金魚も可愛いが室内に限定される生き物だし、僕が水槽越しに世話をしてる姿を見て果たして女性はグッとくるのか甚だ疑問だ。  そうなると、やはりここは犬を選ぶべきか。一緒に歩いているだけで明るく健康的に見られそうだ。何より犬は直接触ることができるので、ペットと一緒に過ごしている感じが伝わりやすそうだ。 「可愛い犬を連れて散歩する僕。その隣には可愛い彼女がいるかもしれない、か」  もしかしたら、そんな明るい未来が僕を待ち受けているかもしれない。  そうと決まればどんな犬を迎え入れるべきか。  昔はペットショップしか選択肢がなかったが、最近はブリーダーや保護施設から迎え入れるケースも増えていると聞いたことがある。こういうときこそインターネットだ。 「保護犬」「ブリーダー」「パピー」など思いつく限りのワードを入力して検索をする。色々調べていると、とあるホームページにたどり着いた。  そこには、日本各地のブリーダーの情報と、そこで生まれた子犬の画像や動画がアップされていた。  どんな犬種がいるのか眺めていると、とある画像で僕は固まってしまった。薄黄色の毛並みのメスのゴールデンレトリバーの子犬が、愛らしいつぶらな瞳でこちらを見ているのだ。  動画を再生すると、その子犬がヨタヨタと頼りないながらもカメラに向かって歩いてくる。そのあまりの可愛さに、思わず「この子だ」と声が漏れた。  しかし、ゴールデンレトリバーといえば大型犬。今は小さいこの子犬も、成長すればかなり大きくなる。実家で飼っていたのは小型犬のミックスだったので、同じ犬とはいえ勝手が違うはず。僕の手に負えるのか。そもそも世の中には色んな犬がいる。この子にこだわる必要はないだろう。  そう思い、様々な犬の画像や動画を見てみる。しかし、頭をよぎるのは先程の子犬のことばかりで。  ブリーダーの住所はうちから少し遠い。でも行けない距離ではない。  こんなに可愛いならすぐに引き取り手が現れそうだ。だけど本当にそれで良いのか。  仮にこの子犬を迎えたとして僕はこの子を幸せにできるのか。いや、幸せにしなきゃならないんだ。  でも。だけど。いや。  いつもなら自分の中で押し問答をすると、色々と面倒になり大抵のことは諦めてしまう。なのにあの子犬は別だ。どうやら忘れられそうにない。 「よし」  僕は心を決めた。
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