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スーツケースを引きずって改札を抜け、バス停を目指す。
通りを行き交う車の音。人のざわめき。熱を孕んで乾いた埃っぽい風。
(やっと帰って来た!)
凝り固まった肩を回して両手を天に突き上げて背筋を伸ばした。
「菜月ちゃん!」
声に驚いて振り返ると見慣れた車の横で手を振る亜希子さん。隣には父。
笑顔でスーツケースを引きずって違づくと駆け寄って来た亜希子さんにぎゅっと抱きしめられた。
年ごろの娘は道行く人に注目されてちょっと恥ずかしい。
「はずかしいよ」
火照った頬のままそっと腕を解きながら――。
「ただいま、お母さん」
呼びかけると驚いた亜希子さんは泣き笑いのような顔になった。
「……お母さんより亜希子ママって感じかな」
そっと視線を逸らせた。慣れない呼び方はどちらも照れくさい。
「どっちでもいいわよ」笑顔で菜月を引き寄せて肩を撫でる。
荷物を車に積み込んで「会えたか?」と問うたのは父。
「――会えたよ」
短い会話。それで十分だった。
視線を上げると高い建物の間で窮屈そうに夏雲が空に高く伸び上がる。
(もしかしてお父さんは分かってたのかな?)
お互いが分からなくても。いつか会えるかもしれない。
菜月は車に乗り込みながら頬を緩めた。
※※
ありがとうございました。
書きたいものを書く! 煮詰まった揚げ句に勢いで始めた物語。
なんと純和風怪奇譚の特集に選んでもらえました。
素敵な物語を読ませてくださる皆様、コメントやスタンプ、お星さまを下さった皆様。出会えた皆様すべてに感謝です。ありがとうございます。
お友達になってくださいと言い出せない黒熊ですが、フォローしていただける皆さま。ありがとうございます。
マイペースに妄想をガンバリマス ٩( ''ω'' )و
参考図書 たくさんありますが少しだけ。
図説日本呪術大全 原書房
しぐさの民俗学 ミネルヴァ書房
怪異と身体の民俗学 せりか書房
妖怪の民俗学 筑摩書房
解釈は大月フィルター( *´艸`)
皆様に可愛がっていただいたお礼に、近日中に頭の片隅にあった後日談を上げさせていただきます。続編は予定はありますが…いかがでしょ??
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