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それはお盆の送り火に合わせて開かれるお寺の縁日。
人混みに揉まれて歩けないと駄々をこねておんぶをせがんだ。初めのうちは背中越しに目を輝かせていたのだがいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「――菜月? 急にどうしたの? 怖い夢でも見ちゃった?」
小さな声に気づいたのだろう、笑みを含んだ声は柔らかい。
「……ううん」
答える菜月のまぶたは重たい。ひんやりとした背中に頬を押し付けて声だけで返事をする。
着物から香るのは――どこかで嗅いだことのある少し苦い匂い。
(花、みたいだけど違う。なんだか薬みたいな匂い)
「ここはずいぶんと暗いから、菜月は女の子だし、怖いでしょう?」
「怖くないもん」
頼りない提灯が照らすのは石畳の細い一本道。闇に沈んだ周囲が少し怖かったが、それを知られたくなかった。
女性の方はとっくに菜月の本心など見抜いていたのだろう。
「そうかい」
問い返すことなくふふと笑って菜月を揺すり上げる。
「――――」
声に聞き覚えがあるのに――なんと呼びかけていいのか躊躇った。
(お姉さんじゃないし……えっと……)
そんな菜月を気に留めることなく女性は問いを重ねる。
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