143人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
ぷろろーぐ
――この世とあの世の境目はどこにあるのだろう?
夢を見ていた。
あれはいつの事だろう。忘れてしまうほどずっと前のこと。
思い出そうとすると胸の奥がちりりと痛む。
とろりと深い闇の中。滲むような歌声が響く。
――ねんねんころりよ、おころりよ
――ぼうやのおもりは、どこへいった
――あの山越えて、里へいった
聞こえてくるのは子守歌。
心地よい歌声は深い眠りを誘う。
不意に身体を揺すりあげられ、菜月は重たいまぶたを開けた。
目に映るのは白い着物。顔を上げれば黒髪を結い上げた白く細いうなじ。細いおくれ毛がふわりと揺れるその人の顔は――背負われていて見えない。
「――――?」
菜月は赤い撫子を描いた浴衣姿。
(なんで浴衣なんか着てるんだろう?)
なにより小さな菜月が女性に背負われているのか分からない。
ゆったりとした歩みにあわせて聞こえる、からころと陽気な下駄の音。
「……あ!」
(浴衣……下駄……今日は縁日だ)
最初のコメントを投稿しよう!