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挙式前:中瀬尊
タキシードに身を包んだ中瀬尊は、目の前の姿見をじっと見る。まさかこの僕がこんなかっこうでこんな場所にいるなんて……。
神戸港にほど近いホテルの結婚式場。尊には最も縁遠い場所だったはずなのに。
結婚など、自分には関係のないことだと思っていた。だが、人を好きになって思いを伝えることができて、そして今日、本当の意味で夫婦となる。
こんな自分でいいのかと何度も妻となった歌穂に問いかけた。そんな尊さんが好きなのだと歌穂はいつも言ってくれた。愛する人を失うことを恐れていた自分が、失う恐怖を乗り越えようとしてでも一緒にいたいと思った初めての相手が歌穂だった。
新郎控室のドアが控えめにノックされる。ドアが開き、スタッフが顔をのぞかせた。
「新婦様のご用意が整いました」
尊は弾かれるようにして入り口を振り返った。
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