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挙式:中瀬ひろみ
前面の大きなガラス窓の向こうは海。側面にも大きな窓が配置されていて、まるで船のデッキにいるよう。陽の光を受けて、前面に掲げられた十字架がキラキラと輝くのを、中瀬ひろみは目を細めて見つめた。
祭壇の前には次男の尊が凛々しいタキシード姿で立っている。その表情からは緊張の色が見え隠れしているが、大きな決意にあふれている。
ひろみは、隣に座っている夫の透の顔を見やる。ひろみと同様にすでに目を赤くしている透は、恥ずかしそうに微笑んだ。
不甲斐ない母親だった。亡くなった長男を思うばかりで、甘えたいさなかの尊を甘えさせてやることができなかった。それなのにまっすぐに育ってくれた尊。
その尊が結婚する。お相手の歌穂ちゃんはとてもいい子。看護師という職業だからというわけでなく、人間としての温かみや優しさに満ち溢れた子だ。尊にはもったいないほどの女性。
チャペルのドアが開いた。思わずひろみは長男の写真が入っているセレモニーバッグをぎゅっとつかんだ。
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