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 私は自分の部屋に息を潜めながら、言い合いの続くリビングを覗いていた。 「いい加減諦めなさい!」 「嫌! 私はお父さんとお母さんと暮らしたいの!」  お母さんとお母さんの妹の美土里(みどり)さんがうちで話し合いをするのは今日で三回目だ。でも、これまでわたしがいないときもやっているみたいだったから多分もう少し多いはずだ。  美土里さんはこの家に慣れているのか、さっき玄関の明かりを点ける手に迷いがなかった。 「どうして分からないの!」  ガシャーン!  とうとう危ない音がして、わたしは思わず顔を逸らして目をつぶった。どちらかが湯呑みを壁に投げ付けたのだ。 「(あかね)、何するの!」  美土里さんの声が一段と大きくなる。  私は薄く目を開けた。床には大小さまざまの欠片に割れた湯呑みが転がって、その欠片の一つの尖った先がこちらを向いている。  私は怖くなって、もう一度顔を逸らし、目をつぶった。そして、今度はドアまで閉めた。しかし、言い合いの声はドア越しでもはっきりと聞こえ続けていた。
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