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「選ばれし勇者よ、まだ逝く時ではありません」
シスターの声が聞こえ、目を開ける。
そこは見慣れた教会だった。
「ご無事でなによりです、勇者さま」
「……ああ、ありがとう。シスター」
棺桶から起き上がった俺は、ふと頭に浮かんだことを言う。
「魔王を倒したら、その先には何があるかな?」
「きっと美しい世界があると思います」
シスターは間髪入れずに返答した。その声には一切の曇りもない。
「そうか」
俺は短く言って、扉へと足を向けた。
「神よ、勇者さまに貴方さまのご加護のあらんことを。世界に光を再びもたらしてくださるこの御方に、神の息吹を与え給え」
シスターはいつもの通り、加護の言葉を韻じた。
「いってらっしゃいませ、勇者さま」
「いってくるよ」
俺はひとりで魔王城へ向かう。
ドルもユリも、アルフも、ヒースも、いない。
――守りたかった世界も、いつだって助けてくれた仲間も、もう残っていないのに。
俺が世界を壊したのか。
魔王が世界を壊したのか。
どうしようもない考えを舌の上で転がして、聖剣を抜いた。
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