聞いてはいけない

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 怒鳴り声に顔を上げると、体育教師の顔が目の前にあった。ガタッと音がして、ドアの影に隠れていた学年主任の先生がそろりと姿を現した。  え? なんで? 四人目……?  さらに学年主任の先生の後ろには、なぜか木村が立っている。  目が合うと、「私だけ叱られないのは悪いと思って追いかけて来たんだけど……。そしたら先生が立ち聞きしていて。私は止めようとしたの、本当だよ!」と訴えてきた。  両足を「休め」の形に開いて、胸の前でお祈りするように両手を組んでいる。  自分は悪くないと必死になっている木村の、どこかたくましい姿に、他の鳥の巣に卵を産んで温めさせるカッコウの托卵(たくらん)のイメージが重なった。托卵された卵は、本物の親鳥が産んだ卵よりも、一足先に雛が(かえ)り、自分以外の卵を巣から落としてしまうのだという。  僕は今、巣から突き落とされた卵の気分だ。  だけど大丈夫だ、ただの僕の作り話なんだから。新メリーさんなんて、いないに決まっている。  新メリーさんなんかいない。いない。いない、はずなのに……、僕のバッグの中で、スマートフォンが勝手に通話状態になった。 「わたし、メリーさん……」  そしてメリーさんは口をつぐむ。スマートフォンからメリーさんがいる場所の音が聞こえてくる。  けたたましいアラームの音。ガラガラガラと何かを引きずる音……。 「ドクター! 402号室の患者さん、急変です! 至急来てください!」 「彼、足の骨折だけのはずだろう?」 「はい、そのはずですが、急に心臓が……」 「……!」 「……!」  まさか佐竹が、と思った次の瞬間、「メリーさん、今、どこに」と、僕はたずねていた……。          (了)
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