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その涙が乾いたら
「これがTKG(たまごかけご飯)?」
咲のお勧めで注文したたまごかけご飯は、沙織の知っているたまごかけご飯ではなかった。
「やっぱり料理はひと手間をかけるかかけないかで大きく変わるな」
沙織と同じように、初めてこの店のたまごかけご飯を目にしたらしい唐沢さんも感心していた。
黄身と白身を分けて、白身の方を泡立て機でメレンゲ状になるまで泡立てる。そうしたらそれをバターご飯の上に乗せてバーナーで軽く炙る。
あとは食べる直前にメレンゲの上に醤油のかかった黄身を落として、いただきまーす。
ふわふわの今まで食べたことのない食感のたまごかけご飯だった。
「美味しい」
「満足度がヤバいですよね」
「うん。美味しい」
不思議だ。もつ焼きを結構食べたはずなのに食べられる。
レモンサワーも三杯くらい飲んだし、今夜は大満足だった。
「俺もシメに何か食べようかな」
「はまぐり茶漬けなんて美味しいですよ」
「はまぐりか。いいね。唐沢はどうする?」
「じゃあ、俺も同じものを」
布施さんと唐沢さんもはまぐり茶漬けを食べてシメにすることにした。
三つの大きなはまぐりの入ったお茶漬けが二人の前にそれぞれ置かれた。
早速茶碗を持って食べる。
「美味い」
「いい味だ」
二人とも満足のようだった。
その内に秘めた寂しさは永遠に消えることはない。
その悲しみは永遠に癒されることはない。
後悔を覆すことは不可能だ。
ただ時間ばかりが絶望的に過ぎ去っていく。
だけど、いつまでも悲しんでいるわけにはいかない。
やらなければならないことがある。
それは幸せなことか不幸なことなのか、よく分からない。
だけど、そうやって人は生きていく。
そして、それぞれの覚悟の物語は続いていく。
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