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相席のもう一人の男性客は、唐沢憲司さんという内科医の先生だった。布施さんとは高校の時の同級生なのだという。
「刑事さんとお医者さんですか。カッコイイですね」
「結果的にそうなっただけですよ」
唐沢さんは一見気難しそうに見えたけれど、話してみると落ち着きのある誠実そうな人だった。
「飲み物は何にします?」
「とりあえずビールかな」
「もつ焼きを注文するのでしたら、ここはレモンサワーをお勧めしますよ。ビールと違って苦味がないから豚肉と良く合います」
「そうなんですか。じゃあ、レモンサワーにしてみようかな」
「私もそうします」
布施さんの提案に乗って沙織と咲はレモンサワーを注文した。
すぐに二人の前にはカットレモンとシャーベット状の焼酎の入ったグラスと炭酸水の瓶がそれぞれ運ばれてきた。
「シャリキンといってね。癖の少ないキンミヤ焼酎をシャーベット状になるまで凍らせてあるんだ」
沙織はシャリキンが初めてだった。早速炭酸水を入れて飲んでみる。
ひんやりとした感触にレモンの酸味が口の中に広がってくる。キンミヤ焼酎はさとうきびの糖蜜が原材料であるらしく芋焼酎のような癖はない。それに凍結している分だけアルコールは軽そうだった。
「美味しい」
「いいですね、これ」
「そうでしょう?」
布施さんはニコニコと笑っていた。「もつ焼きは希少部位も取り扱っているんですよ」
メニューを眺めてみる。
豚肉の部位といったら、タンとカシラ、ハツとレバー、ハラミとガツ、ロースにバラ、テッポウなどが一般的なのだろうが、メニューを見てみると喉笛、喉がしら、りっぷ(唇)、まめ(腎臓)、卵巣など、通常のお店では取り扱っていない部位までリストに並んでいた。
「喉笛とか美味しいですよ」
もはや提案されてもイメージすらできない。ここは二度目の来店である咲に委ねることにした。
「任せてください」
こういう時の咲は頼りになる。
食欲が旺盛なのは元気な証拠。生きることは食べることだとよく耳にするが、本当にその通りだと沙織は思った。
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