270人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、私たち同席しなくても2人で仲良くお食事できそうね」
は!?
祖母がとんでもないことを言い出した。
「そうね。実は、こんな年寄りと話すより、若い方2人の方がいいんじゃないかと思って、私たちは別で部屋を用意してもらってるの」
藤城課長の隣の老婦人まで、さらにとんでもないことを口にする。
「いや、おばあさま、それは……」
藤城課長も慌てて口を挟むけれど、老婦人はそのままスッと立ち上がってしまう。
「自己紹介も必要なさそうだから、あとは彰親さんがきちんとおもてなししなさい」
課長の下の名前、彰親っていうんだ。
そんなことを思ってる私の目の前まで来た彼女は、優しく微笑んで私に話しかけた。
「凛華さん…でしたね? 女性のもてなし方も知らない無作法な孫ですが、よろしくお願いしますね」
その上品な振る舞いに育ちの良さを感じる。
「いえ、そのようなことは……」
私は表向き否定しながらも、内心、確かに課長が愛想良く女性と話してるところを見たことないなぁ……なんて考えていた。
「じゃあ、妙子さん、参りましょうか」
彼女がそう祖母に声を掛けると、祖母も、
「そうですね。凛華、粗相のないようにね」
なんて失礼なことを私に言い置いて、2人仲良く部屋を出て行ってしまった。
困った私が、閉まった襖を見つめて立ち尽くしていると、課長が口を開いた。
「とりあえず、座ったらどうだ」
言ってることは間違ってない。
立ち尽くしてても仕方ないし、これからおいしいお料理が出てくるんだし、座った方がいいのは分かってる。
でも、言い方!
確かに、彼の方が年上だし、上司ではあるけれど、そんな上から目線で言うことないんじゃない?
なんて、私は密かに課長のその態度にイラついていた。
けれど、その程度のことで文句を言って喧嘩をするほど子供じゃない。
私は、笑顔で言葉を飲み込むと、
「そうですね。では、失礼いたします」
と、横柄な課長に当てつけるように丁寧に答えて、課長の向かいの座布団に正座した。
「祖母が強引に頼んだようですまなかった。遠慮なく君から断ってくれて構わないから」
相変わらず言葉遣いは気になるものの、自分から断らないところに多少の気遣いを感じる。
最初のコメントを投稿しよう!