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「あの、課長は社長のお孫さんだったんですか?」
苦手な上司と2人で向かい合わせに座ったところで、他に話すこともないので、1番気になってることを率直に尋ねてみる。
すると、それを聞いた課長は一瞬目を見開くと、
はぁぁぁ……
と大きくため息をついた。
「まさか君に知られるとは思わなかった。悪いが忘れてくれないか?」
は?
「いえいえ、こんなすごい情報、忘れたくても忘れられませんよ。別に隠さなくてもいいじゃありませんか?」
何も悪いことをしてるわけじゃないんだし。
「特別な目で見られるのは嫌なんだ。社長の孫だと分かれば、俺がどんな失敗をしようとしてても、言葉を飲み込んで指摘しないだろ?」
まぁ、確かに遠慮はすると思うけど……
「まるで、今は何でも言ってもらえるような言い方ですね」
つい、課長の言い方が癇に障って、余計なことを口にしてしまった。
課長はハッとしたように顔を上げる。
「何か、言いたいことがありそうだな」
しまった。言わなきゃ良かった。
口は災いの元ってよく言うけど、遠慮を知らない私は、思ったことを言い過ぎてよく失敗をする。
けれど、言ってしまったものは仕方ない。
正面から課長に見据えられて、私は開き直った。
「課長は1人で頑張りすぎてて、周りと打ち解けてません。和気あいあいとした雰囲気がないと、いい意見も悪い意見も気軽には言えません。寒い親父ギャグも、それを気軽に突っ込めるような職場の雰囲気を作る上では有効だと思うんです」
私は、普段思ってることを一気にぶちまけた。
すると、課長はそれを真剣に聞いた上で、驚いたように言った。
「君は……、そんなにはっきりものを言う人だったのか」
まぁ、普段は猫かぶってるもんね。
「そうですよ。今の職場には、はっきり意見を言えない雰囲気があるから、課長はご存知なかっただけです」
開き直った私は、はっきりと答える。
それを聞いた課長はしばらく考えた後、言った。
「君は、これから、思ったことは遠慮なく何でも言っていい。いや、言ってほしい。君の意見は傾聴に値する」
傾聴に……値する?
「ふふふっ」
私は思わず笑ってしまった。
「ん? どうした?」
課長は不思議そうに首をかしげる。
「だって、普段の会話でそんな言い方する人に初めて会ったんだもん」
この人、堅物すぎて、おもしろい。
元来、箸が転がっても笑う私は、もう些細なことがおもしろくて仕方ない。
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