恐怖

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 私を抱き抱えたまま男は移動する。扉を潜り中に入ると、すぐに一つの部屋が広がっていた。そして、そこにも木造の手足はあった。  上から吊るされているもの、床に転がされているもの、机に横たわっているもの――たくさんの手足が、力なくそこにある。まるで、切り落とされた私の足のように。  そしてもう一つ、私は見つけてしまった。瞬間、内臓が掴まれたかのように息苦しくなる。  私の目に映ったのは――映してしまったのは、のこぎりや妙な形の金属棒、それから多くの見慣れない武器だった。刃のついたものも、どう使うか分からないものまである。  男は私の恐怖など見てみぬ振りで、私を部屋の隅の台に――解剖台らしき場所へと下ろした。固いかと思いきや、そこは意外と柔らかかった。 「さて……」  男は横にあったらしき椅子に腰掛け、私を見下ろす。初めて目にした男――青年はかなり若く見えた。  青年はそれ以上何を言うでもなく、ただ私の全身を舐めるように見る。怒気を含むような顔は、鬼のようだった。  これからどうなるんだろう。解剖されて死ぬのかな。四肢を切られたまま生きるのかな。  近い未来での出来事を、幾つもシュミレーションする。ただ、どうなるにせよ絶望しかなかった。 「なんと言えばいいのか分からないんだけど……お疲れ様」  ……え?  夢が入り込んだかのような言葉に、思考がストップする。労いなんて、私の記憶には一度だってない。  青年は頭を掻きながら、何やら考える仕草をしだした。 「えと、君にとって僕は他の主人と変わらない酷い奴かもしれない。ほら、現にお金で買ったわけだし……んん、上手く言えないな」  そして、言い訳染みた口調で言葉を紡ぎだす。固い表情とは裏腹に、声色が監視官とは違い穏やかだ。それに、内容もやはり夢の世界を錯覚させる。 「あ、忘れてた。まず最初にすることがあったね。ああ、やっぱり僕はどうも人と話すのが苦手らしい、うん」  最初にすること――含まれた不透明な何かに、一瞬緩みかけた恐怖が蘇る。反抗させない為の調教か、それとも全身のチェックか――。 「僕の名前はアーリュ。君のような子にずっと来てほしかった」
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