恐怖

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 君のような子――と聞いて、最初に浮かんだのは足の欠落だった。ただ、丁寧に名乗られてから続けられたせいで、その言葉をどう捉えるべきか分からない。上の人間から名乗られたことなんかなかったのだ。ゆえに戸惑う。  恐らく青年――アーリュが"すること"と形容したのは自己紹介だったのだろう。 「あ、ごめん、またしくじった! ……駄目だな僕は……喋ること事前に考えてたはずなのに。えっと、不快な思いをさせたのなら申し訳ない……って言っても、君のような足を失った子を待っていたのは事実で……あああ! 言葉って難しいな……」  話し出すと止まらない性格なのか、アーリュは一人で喋り続ける。私は返事も忘れ、ただ唖然としてしまった。  しかし、それは言葉数に圧倒されている訳ではない。その声色に、雰囲気に、含まれる言葉の数々に、唖然としてしまったのだ。  人間に対するような態度に――むしろそれ以上の、思いやるような台詞にも。 「えーっと、ごめんね、きっと凄く辛い思いをしたよね。でも、僕には君が必要なんだ……だからあの」  彼は、私を一人の人間として扱おうとしている。  想像と真逆の待遇に、安堵が全身を包み込んだ。じわりと瞳に涙が浮かぶ。だが、落としてしまうのは我慢した。 「僕の相棒になってくれないか?」  だが、足掻きは無駄だったらしい。  糸が切れたように泣き出す私を、アーリュは不器用に抱き締めてくれた。
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