絶望

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絶望

 揺れの激しい荷台とは対照的に、真上の空は大きかった。初めて目の当たりにした、広大な青に涙が滲む。本能的に堪えようとしたが、今は必要ないのだと悟り溢した。  これは嬉し涙ではない。悔し涙だ。空へ飛んでいきたくても出来ない悔しさからの涙。いや、それだけじゃない。  体を縛る紐、落下防止の壁、こんな狭い現実こそが私に与えられた世界だった。    たった一昨日まで、私は奴隷として地下で働いていた。貧しさに耐えかねた母親に、四歳で売られて十年もだ。  名前を数字に変えられ、内戦の為の武器を毎日作らされた。木を割り、刃を研ぎ、槍や剣を中心に弓矢なんかも組み上げた。  常に監視され、粗相をすれば殴られ、逃げ出そうとすれば待つのは酷い仕置きである。だから、本当はしたくない仕事にひたすら従事した。ひたすらに頑張り続けた。    なのに。    今の私には右足がない。膝の少し上から完全になくなっている。発端はよくある事故、そして最大の原因は監視官による無慈悲な仕打ちだった。思い出すだけで、悪寒と痛みが込み上げる。  一昨日、私はいつものように武器を作っていた。その日は剣を作っていて、仲間と協力し、頑丈に部品同士を組み上げていた。  だが、事故は不意に起こる。作業中、仲間が手を滑らせ、研がれた刃が私の膝目掛け倒れてきたのだ。そうして私は負傷した。  致命傷ではなかったが、怪我は怪我だ。血が溢れ出す。咄嗟に両手で庇ったが、血はすぐに止まらなかった。  酷い焦りが広がる。監視官が駆け付ける前に、止血しなければと必死に押さえる。全ては、今の私に辿り着かない為だった。  ここでは、損傷した人間の――使えなくなった人間の末路は決まっている。何度も見てきて知っていた。  時間よ止まれと願ったが、監視官はすぐにやってきた。私は、まだ働けますと立ち上がろうとする。だが、痛みで叶わなかった。  それからは早かった。監視官が組み上がっていた剣を手に取り、私の足に振りかぶった。叫び声なんて、聞こえていないかのように。
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