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十年前
「十年前は、こんな風になるなんて思ってもいなかったよね」
「十年前って言うと、出会った頃か」
「そうそう、高校に入って少しした頃。覚えてる?」
「忘れるわけないよ。今となっては良い思い出だけど、あの時は悩みの種でしかなかったからな」
「私も。学生って本当、誰彼構わずくっつけたがるから困ったものだよね」
「本当にその通りだ」
「あの時も、今と同じ"振り"ではあったけど、今とは全然気持ちが違うよ」
「懐かしいな」
「恋愛なんて興味がないって言ったのに慎介を紹介されて」
「流れのままで付き合ってしまえとくっつけさせられて」
「平穏な高校生活の為にも恋人の振りをしようなんて言って」
「二人して友達も、家族すら騙して」
「でも、同じ悩みを抱えていることが分かって」
「他の部分でも、とても気が合うことが分かって」
「この人と過ごすのは気が楽で心地良いって思うようになって」
「俺たちはそのままで良かったんだけど、回りが結婚しろって言いだして」
「で、慎介が『する?』って言ってきた時は本当にびっくりしたよ」
「それも良いかなって思ったんだ。静が受け入れてくれるとも思わなかったけどな」
「私も良いかなって思ったから。ただ、隠しごとをしたままって言うのは、やっぱり心が痛くて。怖いくせに面倒な奴だよね」
「いや、俺も後ろめたさみたいな奴はあったから。でも打ちあけようとは思えなかったから、正直決意に痺れた」
「何回も揺れてるのに?」
「それでも」
「ねぇ、原稿ないけど今スピーチ読める?」
「もちろん。たくさん練習したからな。全部頭に入ってるよ」
「聞かせてくれない? 安心したいの」
「お安いご用だ。長いからな、子守唄がわりにしてくれよ」
「うん、そうする」
「じゃあ、始めるぞ。あー、改めまして、新郎の慎介と申します」
「ふふ、"あー"からなんだ」
「ほらほら、目を閉じて想像して」
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