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「おまえの席はここだ。何か文句でもあるか?」
ないです。ないです。全然ないです。
ありますって言ったら、何をされるかわからない💦
「たとえ、文句があったとしても変えるつもりはないがな」
口の端を上げて意地悪く嗤うのは、わたしが配属された先、支援相談課のイケメン課長、冴木徹。
年は三十代前半、独身。
すべての女子社員が狙っているほどの大物。
わたし、麻央は、
入社試験の時に、遅刻しそうになって慌てて飛び乗ったエレベーターで、上司を押し倒すというヘマをやらかした。
それも押し倒しただけじゃなく、くちびるが触れてしまったという……(悲しいかな、わたしのファーストキスの相手でもある)
わたしの机は、冴木課長の真ん前に置かれた。
みんなの机は課長から少し離れたところに左右に並んでるのに、わたしだけ……
入社試験の面接官だったと、面接室で顔を合わせた時には絶望した。
最後の頼みの綱で受けた会社なのに、絶対に落ちると思った。
それなのに、なぜか受かって今はここにいる。
ある意味、この状況も絶望だけど。
「おまえには俺のサポートとしてついてもらう。反論は許さない」
「あの、でもそれは」まずいんじゃ……
この部屋の女子社員の目がわたしの背中に刺さってる。気がする。
「反論するなと言っただろう。早速だが出かける。ついてこい」
社内の研修期間を無事に終えて、配属された当日。
席に座らないうちに冴木課長が上着を持って立ち上がった。
今すぐなの?うそ!?
「何をしてる。早く来い!」
みんなの憧れの冴木課長。
その課長がオロオロするわたしにこめかみに青筋を立てた。
「は、はいっ!」
慌てて冴木課長の背中をついて廊下を早足で追いかけていく。
と、ヒールが滑って、
「きゃあっ」
振り返った冴木課長の胸に飛び込んでしまった。
「おまえは、毎度毎度、俺に何か恨みでもあるのか💢」
怒れる冴木課長のシャツには、わたしの淡い色のくちびるの跡がしっかりとついていた。
怖い冴木課長。怯えるわたし。
正社員1日目のわたしは、早くも冴木課長の怒りを買ってしまった。
「おまえ、いい度胸してるよな」
目の据わった冴木課長がいた───
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