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※※※
「おはよう、……ございます」
「麻央ちゃん、おはよう。もう具合はいいの?」
着替えをして恐る恐る会社に出社すると、月子先輩はにっこり爽やかに挨拶してくれた。
朋実先輩もテーブルに花を飾りながら笑顔で迎えてくれた。
「麻央ちゃんったら角に置けないわね。同期で優しい彼氏がいたなんて」
いえいえ誤解です。
高野はそんなんじゃなくてただの同期です。
それよりも……
「おはよう」
びくっ
この低くてよく通る声の主は……
恐る恐る振り返ると、やっぱり冴木課長。
スーツをきっちりと着こなし無駄のない動きで席に座る。
「お、おはよう、ご、ございます……」
どんな顔をしていいのかわからない。
わたし、本当に冴木課長とシちゃったの!?
勝手に冴木課長の家を飛び出してきちゃったことどう言えばいいの?
どうしようどうしよう……
「遠峯」
「は、はいっ!!!
冴木課長に呼ばれ声が裏返った。
「顔色が悪い。おまえ、少し医務室で休んでろ」
「いえ、そんな」
「いいから、休んでろ。ここで倒れられても困る。いいか、これは上司命令だ」
睨むようにわたしを見る。
冴木課長はものわかりの良い上司の顔でそう言った。
確かにまだ頭がふらふらするけど、飲み過ぎたからだなんてみんなに言われたくなくて。
だけど、冴木課長には逆らえない。
「はい……医務室に行ってきます。すいません」
みんなが仕事に入って、わたしは医務室のベッドで少し休ませてもらった。
少し眠ったら目覚めた時には頭がスッキリした。
仕事に戻らなきゃ。
ベッドから降りてカーテンを開けると、目の前の長椅子に冴木課長が座っていた。
「……さ、冴木課長」
今、一番会いたくなかった人がいて顔がひきつった。
一夜の遊び。
冴木課長にそう思われたのか。
上司と簡単に寝るそんな軽い女と思われたのか。
なんでそんな関係になってしまったのかと頭がパニックに。
そんなわたしに冴木課長は。
「何もしてない」
そう言った。
一瞬、冴木課長が何を言ってるのかわからなかった。
「昨夜のことを言ってる」
冴木課長は固まって立ち尽くしたわたしを視線で向かいの椅子に座らせた。
「いいかよく聞け」
冴木課長は、大きく息を吸った。
「まずは、おまえは乗ったタクシーの中で酔いが回りいきなり吐き出した!」
ひえっ!うそっ!!
「怒った運転手にアイツと共にタクシーを下ろされて、おまえをふたりで抱え俺の家に連れてきた!!汚ったねえおまえを連れてだ!!」
ひっ!!うっそ!
「とりあえず着替えさせ、汚れた服は洗濯してやった!俺たちと同じ部屋に寝るのじゃいくらなんでもまずいだろうって、おまえとアイツはそれぞれ別の部屋で休ませてやった!!」
言っとくが、見てないからな!!
ひえええっ!!
そ、そうだったの?
わたし、てっきり……
「酔って正体なくなってる女に誰が欲情するかっ!!」
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