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昔から、十二月がいちばん好きだった。
街はキラキラ煌めくクリスマスムード。寒がりな太陽がすぐに引っ込めば、光と音に彩られた幻想的な夜がくる。滅多に降らない雪に思いを馳せるのもいい。
そして私の誕生日も十二月。プレゼントもケーキも二回、最高に素敵な一ヶ月だから。
なのに──。
今年の十二月だけは少しも幸せじゃない。
十日の誕生日は、私の方が出勤日で、しかも残業したから終電。
テーブルの上に優介が買ってきてくれていたらしい小さなショートケーキがあったけれど、彼が寝ていたからリビングの灯りも付けずに立ち食いした。味気ない。
そういえば、一年前は大きなホールケーキを買ってきてくれたっけ。なのに玄関でバランスを崩して、まるで漫画みたいにケーキ箱が宙を舞ったのだ。
あの日は、ぐちゃぐちゃになったケーキを大笑いしながら二人で食べたのに。
毎日毎日、少しづつ、幸せの風船がしなしなとしおれていく。
モモがどんどん痩せていく。
気づけばモモは、後ろ足を引きずるようになっていた。怪我ではなく、もう筋肉が衰えてしまったんだと思う。
それでも懸命に、私の元へと擦り寄ってくる。その姿が愛おしくて痛ましくて苦しい。
仕事を減らしたことは半分正解で半分不正解。働いていればモモが心配で仕方ないけれど、家にいても、日に日にしぼんでいく命に心臓が張り裂けそうになる。
どうして時間は止められないのだろう。
羽が生えたみたいに軽くなってしまった彼女を膝に抱いて、ただぼんやりテレビを観る。
今日は春頃に不倫で騒がれて一旦姿を消していた俳優の颯ジュンが、全てのチャンネルを独占していた。元人気アイドルだった彼の妻、沖まりかが自殺したからだ。
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