1:落日

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***  昔から、十二月がいちばん好きだった。  街はキラキラ煌めくクリスマスムード。寒がりな太陽がすぐに引っ込めば、光と音に彩られた幻想的な夜がくる。滅多に降らない雪に思いを馳せるのもいい。  そして私の誕生日も十二月。プレゼントもケーキも二回、最高に素敵な一ヶ月だから。  なのに──。  今年の十二月だけは少しも幸せじゃない。  十日の誕生日は、私の方が出勤日で、しかも残業したから終電。  テーブルの上に優介が買ってきてくれていたらしい小さなショートケーキがあったけれど、彼が寝ていたからリビングの灯りも付けずに立ち食いした。味気ない。  そういえば、一年前は大きなホールケーキを買ってきてくれたっけ。なのに玄関でバランスを崩して、まるで漫画みたいにケーキ箱が宙を舞ったのだ。  あの日は、ぐちゃぐちゃになったケーキを大笑いしながら二人で食べたのに。  毎日毎日、少しづつ、幸せの風船がしなしなとしおれていく。  モモがどんどん痩せていく。  気づけばモモは、後ろ足を引きずるようになっていた。怪我ではなく、もう筋肉が衰えてしまったんだと思う。  それでも懸命に、私の元へと擦り寄ってくる。その姿が愛おしくて痛ましくて苦しい。  仕事を減らしたことは半分正解で半分不正解。働いていればモモが心配で仕方ないけれど、家にいても、日に日にしぼんでいく命に心臓が張り裂けそうになる。  どうして時間は止められないのだろう。  羽が生えたみたいに軽くなってしまった彼女を膝に抱いて、ただぼんやりテレビを観る。  今日は春頃に不倫で騒がれて一旦姿を消していた俳優の(はやて)ジュンが、全てのチャンネルを独占していた。元人気アイドルだった彼の妻、(おき)まりかが自殺したからだ。
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