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「うーん、そうだね。あのあと離婚したとは聞いてないし、さらに何かあったのかもしれないね」
「だね。……もしくは、ゆっくり絶望していったのかも」
「ゆっくり絶望?」
「だって、ごめんなさい、はい元通り、ってわけにはいかないじゃない? なんとかしようとして、でもできなくて。苦しくなったのかもね」
何となく感じたままにそう返してしまってから、しまった、と思った。これではまるで、今の私の心境を言っているみたいだ。
でも、優介は特に気にする素振りも見せず、
「なるほど、そうだよね」
と相槌を打った。
胸を撫で下ろした反面、彼のこういう鈍感なところがときどき歯がゆくも感じる。
真っ直ぐで人がいい。けれど、真っ直ぐだからこそ、こちらも真正面からぶつからないと、何も理解されない気がする。
優介が傷病休暇を取った時、何も相談がなかったこと。これがどんなに私を失望させたか、彼はきっとわかっていない。
もちろん優介には優介の言い分がある。そんなことは知っている。
だとしても、私は──。
「まあでも、理子は安心していいよ」
優介が急にそう言った。
「え、何の安心?」
「俺は何があっても、絶対に浮気なんかしないから」
二十九になった私より三つ上、三十二という年齢を少し幼く見せるつぶらな褐色の瞳が、痛いくらい真っ直ぐにこちらを見つめる。
その後ろで、テレビの画面が忙しなくチカチカと色を変える。ファッション系専門学校のCMだ。私の好きなバンド『Sandplay』のロックナンバーが、ご機嫌なビートを刻む。
膝の上で静かに眠るモモが、ほんの小さく動いた。
「ありがと、ちゃんと安心してます」
ねえ優介、全然違う。私が欲しいのは、そんな一方的な愛の誓いじゃない。
"病める時も健やかなる時も、共に過ごし、愛をもって互いに支え合うことを誓いますか?"
私達はちゃんと共に過ごしているのだろうか。
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