プロローグ

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 マヌケだなと思う。欲張り過ぎて風船を割ってしまった、マヌケな人。その不倫が遊びでも純愛でも、辿り着いた結果がこの現状なら、結局マヌケに変わりはない。  その反面、ジュンを少し気の毒にも思う。CMを全て降板させられ、決まっていた映画もキャストから外され、その上こうして世間にまで頭を下げさせられるのだから。まあでも自業自得だし、本音を言えばどうでもいいのだ。  まだ結婚三年にも満たないせいか、私は世間様に比べて、浮気やら不倫やらのゴシップにどうも興味が薄い。  こんなことより他に報道すべきことはないんだろうか、たとえばコレがまた不当に値上がった件とか。と茶色いフィルターを憎々しげに見つつ煙を吐き出す。  つまるところ、私の日常は今日も平和。レースのカーテンの隙間から、四月のあたたかな日差しでひなたぼっこをする、愛猫モモの白い毛並みが覗いている。  テレビは知らぬ間にCMに入っていて、やけに古い歌が流れてきた。幸せは歩いてこないから自分から歩いていくんだと歌うこれは、なんというタイトルの曲だっけ。  タバコを灰皿にもみ消し、ダイニングテーブルの上のスマホを拾い上げる。  歌詞を入力して『これ、なんて曲?』と投稿した先はSNS、フェイマスブックだ。『三百六十五歩のマーチだよ』と、毎日話すけれど会ったこともない誰かが、すぐに答えを教えてくれた。
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