プロローグ

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 今住んでいるここ、西桜台(にしさくらだい)には縁もゆかりもなくて、周りに知人のひとりもいない。出かけようにも駅まですら徒歩十五分もあるから、気分はまるで陸の孤島だ。  でも何も問題ない。  話相手ならフェイマスブックにいくらでもいるし、それにも飽きたらゲームやアニメがある。漫画だって小説だって、向こうの部屋の本棚にずらりと並んでいる。  近くて遠い誰かに『ありがとう』と返しながらソファーにどっかり腰を下ろしたら、すぐにモモがぴょんと膝の上に飛び乗ってきた。頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて喉をゴロゴロと鳴らす。  この家はお城だ。優しい夫が用意してくれた、私達三人の素敵で幸せなお城。  なのに、またため息が漏れた。  スマホのデジタル時計に目を落とせば、午前十一時過ぎ。毎朝九時出社するはずの夫は、さっきやっと家を出ていったところだ。  最近、遅刻していくことが増えた。よほど眠いのか、朝起こしても会社に連絡を入れて二度寝してしまう。確かに春眠暁を覚えずとは言うものの、遅刻は人としてどうなのか。  けれど、先月は残業が続いたから、かなり疲れが溜まっているのかもしれない。子供もいない気楽な専業主婦をさせてもらっている身分で、強くは言えないのだ。あなただけが頑張り続けろ、なんて言えるわけがない。
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