1:落日

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 私の職場である居酒屋『なごみ』は、西桜台(ウチ)から二駅行った本宮下(ほんみやした)駅から徒歩三分弱、本宮下一番街のど真ん中に位置している。何故か焼き鳥屋ばかり立ち並ぶこの通りでは珍しく、魚を中心とした小さな大衆居酒屋だ。  入店したのは夏前だから、勤めてそろそろ半年になる。  営業時間は夕方五時から朝の五時まで。店休は月曜。早番、遅番の二部交代制で、どちらの時間帯も大抵三人で回している。  週に五日、早番に入っている私は、いつも店長の(かず)さんと一緒。今日のもう一人はすごく無口な大学生の音無(おとなし)くんだ。音無くんは今、黙々と洗い物をしている。 「理子ちゃーん、一緒に飲もうよー」  松さんの前にアイスペールを出したところで、別の客から声がかかった。  引き戸一枚隔てた向こうは、初冬らしからぬ急な豪雨に濡れる夕暮れの街。雨宿りがてらに飛び込んでくるお客で、平日の午後六時前だというのにもうカウンターが半分埋まっている。  今日は忙しくなるに違いない。 「ありがとうございます。じゃあ、一杯ご馳走になろうかな」  安くて美味しい魚料理に加えて、このアットホームさも居酒屋なごみの特色かもしれない。  週末は和モダンな外装につられて入ってくる若者カップルなども少なくないけれど、普段の客の大半は古い常連。店長の人柄もあってだろう、いかにも下町らしい無骨で人懐っこいオジサマ達がご贔屓にしているのだ。
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