でも、それだけで。

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でも、それだけで。

 深優(みゆ)杉山快大(すぎやま ひろと)のプロポーズを受け入れてくれたのは、快大が社会人三年目、深優は社会人五年目の春のことだった。「アンタと結婚できる女なんてどうせ私ぐらいよ」なんて強がっていたけれど、深優の瞳からは一筋の涙が流れていたのを、快大は知っている。  三年も婚約指輪をそのままで持っていたものだから、ようやく深優に受け入れてもらった時には、まさか指輪が入らなくなっていた。  いまいち格好がつかなくても、深優が結婚してくれるのが嬉しくて、終始喜んでいた快大に深優は言った。  「本当、そういうところよ」と。ため息をつきながらも、深優の唇の端は笑っていた。    
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