でも、それだけで。

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 そんな夜を過ごした後の朝でも、昨日と変わらない喧騒がやって来る。  寝過ごした快大は今朝もバタバタと、ネクタイを結びながら階段を駆け降りた。 「ママー、牛乳こぼしたあ」  でも、今日は快大がスライディングをする前に茉莉の声が聞こえて、快大は靴下を牛乳に浸さなくて済んだ。 「まったく。何度言ったらわかるの。よく見て飲みなさい! 」  嗜める深優もいつも通りだ。少し目が赤いこと以外は。  深優がため息をつきながらこぼれた牛乳を拭き取り、快大は硬いトーストを(かじ)ってウロウロした。茉莉の保育園のバックが目に入って、快大は思わず足を止めた。  そこには、昨晩見たピンクのうさぎのブローチがついていた。 「あ、パパ。ピンクのうさぎさん、ママにもらったのー」  牛乳のひげを付けた茉莉が、嬉しそうに笑った。     快大は今朝も、慌てて愛しい我が家を飛び出して、仕事と言う名の戦場へ向かった。  戦場に向かう兵士だというのに、今日はどこのケーキを買って帰ろうかな、と想像すればそれだけで、快大は笑っていた。
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