八 「二人の河」~流れの景色~17

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八 「二人の河」~流れの景色~17

 千恵の愛情を含んだ言葉は智也の心を温かく包み、ゆっくりと落ち着かせてゆく。今一番大切な人が目の前にいる。手を差し出せば握りしめることができる。抱きしめれば安らぎを感じる温もりがある。俺は千恵と一緒に年を重ねていくべきなのに。  智也は清らかな気持ちで千恵を見つめた。  智也はやっと心の言葉を口にした。 「俺は誰にも頼らずにお前を守っていきたかったんだ。俺はお前を守っているという責任と自覚と自信を持っていたかったんだよ」  一瞬、千恵は自分の右肩に顔を沈めるようにして、また智也と向き合った。 「私はあなたに守られるだけの妻になりたくないの。何も知らされずに、支えられるだけの妻にはなりたくないの。あなたに頼るだけでなく、自分の仕事を持って、お互いを支え合いたいの。振り返ってがっかりするような人生は歩みたくないわ。私はねっ、自分を気にかけてくれる温もりが欲しかっただけなの。手をつないで、長閑(のどか)な街を散歩しながら流れる時間を過ごしたかっただけなの。そんな人生をあなたと歩んでいきたかったの。それが私の幸せなのよ。私は出逢った頃のあなたが一番好きなの」  千恵は息を飲んでじっと智也を見つめた。  智也がどういう反応を示すのか、千恵は静かに待った。 「俺だって寂しくて悲しい明日ではなく、安らぎのある未来を残したいと思っているさ。でも……」 「でも何」 「お前はもう出て行く気なんだろ。俺たちはもうやり直せないんだろ」 「離婚はするけど、家は出ないわ。これからのあなたを見て、昔の二人が取り戻せるか、しばらくの間ゆっくりと考えるわ」  智也と千恵は微かな笑みを頬に零した。
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