第二章

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6 バーへ 「さて。話もついたことだし。どこへ行く? いい女が集まるバーがあるけどな」 「ランディ、彼女はどうしたの?」 「とっくの昔にわかれた……」 「もしかして、あのときの事故が原因?」  レイモンドの顔が曇ったのを見て、ランディが言う。 「それだけじゃない、さ」 「ごめんね、ランディ」 「悪いと思ってるんだったら、今夜は、あんたのおこぼれを持ち帰らせてくれ」  レイといると、いい女が選り取りみどりだからなと。 「う~ん。あんまり遊びたい気分じゃないんだけど」 「へっ、どうしたんだレイ。前は毎晩のように、飲みに行こう、遊びに行こうってうるさかったのに」 「なんかさ、好きでもない女を落とすのが面倒になった…」 「落とさずとも、寄ってくるだ…」  言いかけて、ランディは、はっとした。 「もしかして。大切な人ができたのか?」 「できた。……でも、もう、いない」  つぶやいたときのレイモンドの目は、哀しい色をしていた。  もう、いない? ランディはその顔を見て、深く突っ込まない方がいいと悟った。 「あんたの無理を引き受けるんだ。つき合ってくれても罰はあたらない。アレクセイも一緒に来るだろう。いい男が2人そろうと、女がごっそり釣れそうだ」  ランディがひときわ陽気な声をあげた。 「それとも、俺はじゃまか?」  2人を見比べてにやっと笑ったランディに。 「まさかっ。俺とアーシャはそんな関係じゃないよ」  レイモンドがあわてて否定した。 「そうか? この男は整った顔立ちだし、あんたの仕事を補佐しているくらいだから、力があるんだろう。好みにぴったりじゃないか。抱かれるなら強くて賢い男だったっけ。レイは男でも女でもOKだけど、そっちが、男は対象外か?」  アレクセイは赤くなって俯いた。いつも毅然としているのに、あからさまに聞かれると…、ポーカーフェイスが保てない。 「もう、やめてよ。ランディ。わかったから。どこでもお供するよ。考えてみると俺、最近、ものすごく品行方正だった。今日くらい、羽目を外してもいいかも」 「おっと、レイ。羽目を外すのはやめてくれ。誰かがつっかかってきても、店では暴れない。頼むぜ、ベルンのバーでお出入り禁止は困る」 「ふふっ、久しぶりだから抑えが効かないかもね。あっ、でも、アーシャがいるから心配いらないよ。俺が暴れだす前に、つっかかってくるヤツらを沈めてくれる。それにもし俺が暴れても、黙らせて担いで帰るくらいのことはする」 「ほう~、この男は相当、強いんだな」 「とっても」  レイモンドが、そういう男でなければ連れてこないよというのに、アレクセイはびっくりした。 「な、なにをおっしゃるんですか。僕があなたに適うわけがない」 「そんなこと、ないよ。おまえは昔から、俺よりずっと強かった。ただ、遠慮しているだけだ」 「ふ~ん。よくわからんが、それなら安心して飲めるわけだ。行こうぜ」 「あっ、ちょっと待って」  トイレに行ってくるとレイモンドが席を立った。  その後ろ姿を見送っていたランディが、真面目な顔になってアレクセイに訊いた。 「なあ、ほんとうにレイは、コスモ・サンダーの総督なのか?」 「あの方が嘘をおっしゃるとでも?」  キッと睨み付けられて、いや、聞いてみただけだとランディは応えた。 「レイの仕事を補佐しているそうだけど、あんたは何をやってるんだ?」 「僕ですか。極東地区の、コスモ・サンダーでは第4艦隊と言うんですが、その司令官をやらせてもらっています」 「あ~! 極東地区が平和になったのはコスモ・サンダーの司令官がスゴイからだって噂になってたが、あんたか。それは、それは」  アレクセイは首を振る。 「違います。僕の力ではなく…。あの方の力です。総督はコスモ・サンダーの構成員に慕われている。だから、民間船には手を出すな、宇宙軍と争うなという命令に、誰もが従っているんです。今のコスモ・サンダーはゴールドバーグ総督を中心に、ものすごくまとまった組織ですよ。ただ…」 「ただ?」 「ずっと総督でいてくださるかどうかが…」 「どうしてだ? レイは納得して総督になったんだろう。今だって、コスモ・サンダーのことを考えて新会社を興そうとしている。あいつは、途中で投げ出したりしないぞ」 「ええ。自分を慕ってくれる男たちの面倒は見るとマリオン様に約束したとおっしゃっていました。でも、決して、自分がやりたいから総督をしておられるわけではないんです…」 「マリオン様?」 「総督が慕っておられた方です。総督の大切な方」 「マリオン様か、レイが大切にしているのはリュウだけだったのに」 「でも、亡くなられたんです。総督は、もう自分は二度と、恋することはないと…」 「へっ、レイが恋? 最高の美女をお持ち帰りしても、次の日には名前さえ忘れてたのに。誰にでもやさしいくせにクールで、恋に落ちるのがあれだけ似合わない男はいないと思ってたぜ」 「お二人は、ものすごく似合っていました。見ていて妬けるほど、幸せそうでした」 「見たかったな。レイは恋人に甘えていたのか?」 「多分…」 「さぞかしいい男だったんだろうなあ?」 「厳しい方でした。総督に対しては特に厳しかった。でも並んで立っておられると、それだけで絵になった。まさにお似合いでした」  出会った頃から、マリオンは気づかれないときだけ、慈しむような目でレイモンドを見ていた。厳しいけれども、あふれる思いを注いでいた。あの二人の間には何ものも入れないだろう。 「お待たせ!」 「遅いぞ」 「ねえ、なんかこそこそ話してたけど、何の話?」 「レイの恋の話?」 「なに、それ」 「今夜は失恋したもの同士、せいぜい、楽しもうぜ」 「ランディったら、なに訳のわからないこと言ってんの」 「実は、バーへ行っても、あんたの素行の悪さに驚くなって忠告してただけだ」  ランディはパチンとウインクした。 「ランディといっしょにしないでよ」 「ああ? 節操のなさでは、俺はあんたの比じゃないだろう」 「もう。ランディの言うことを信じちゃだめだよ、アーシャ」 「は、…い。でも、彼はあなたのことをよくご存じのようなので…」 「あ~あ。ほら、ランディのせいで、俺の評価が下がったじゃない」 「ま、バーに行ったら、どうせ下がるさ」 「もう!」
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