第二章

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9 作戦室にて 「なんだとっ! 総督の宇宙船が宇宙軍に拉致されただとっ!」  報告にきた戦闘員ののど頸をぐいっとつかみ上げて、ポールが叫んだ。 「お、落ち着いてください。デイビス司令官」  そばにいた補佐官があわててポールを止めに入る。 「落ち着けだとっ! これが、落ち着いていられるかっ!」 「司令官。ここで部下を怒鳴り散らしていても総督を助けることはできません。状況を把握して、どうするか考えないと。こんな時こそ、冷静でなければいけません」  言われて、ポールはようやく部下から手をはなした。その手をポキポキ鳴らしながら、室内を歩き回る。足を止めると、報告に来た部下をじろりと睨み付けた。 「それで、状況は?」 「今すぐ、作戦室にお越しください。詳しいことはそこで…」 「早く言え!」  ポールは言うなり、走り出した。総督がどんな目にあっているかと思うと気が気ではない。ポールは総督としてだけでなく、個人的にもレイモンドを尊敬していた。いや、崇拝という方が近いかも知れない。レイモンドのためなら、迷わず命を差し出せる。  アレクセイのやつ! 自分ならどんなことがあっても、総督を宇宙軍にさらわせたりしないのに! 「ミハイル司令官は、何をやってるんだっ!」  作戦室につくなり怒鳴ったポールに、集まっていた幹部連中の視線が一斉に巡ってきた。 「座ってください。いま、ヴァレリオ副司令官から報告を受けている」 「…わかった。中断させてすまない、続けてくれ」  ヴァレリオはひとつうなずいてから、話を続けた。 「3時間ほど前に、ミハイル司令官から極東宙域に入ったという連絡があった。もうすぐ帰るという連絡だ。それから、管制塔ではCS-1をずっとモニターしていたが、その約30分後に宇宙軍の艦隊がCS-1を囲んで…、CS-1は宇宙艦の中に消えた。その後、宇宙艦は宇宙軍極東基地に着艦したようで、今は連絡がつかない状態だ」 「2人の無事は確認できているのか」 「わからない。ただ、CS-1の操縦者が自分で操縦して宇宙軍の艦に入っていったことだけは確かだ」 「それは、どういうことだ」 「総督かミハイル司令官の意志で、そうしたということだろう」 「ふむ。……それで。俺たちはどうするんだ?」  腕組みをしたポールが聞く。 「みなの意見を聞きたくて、招集をかけた」  ヴァレリオが幹部たちの顔を見渡した。 「ミハイル司令官の指示ははっきりしている。宇宙軍には手出しをするなと」 「それは、ミハイル司令官のではなく、ゴールドバーグ総督の意志でもある」 「それなら、CS-1から連絡があるのを待ちますか?」  悠長な会話に、ポールが怒りを爆発させた。 「おまえらは、総督や司令官が心配じゃないのか! 宇宙軍極東基地に向けて、いますぐ艦隊を出発させることを提案する。第4艦隊が行かないなら、中央艦隊だけでも行くぞ! 連絡を待つにしても、近くにいたい」  ヴァレリオが聞く。 「総督の命令に背くのか。戻ってくるまで待っていろという指示だったはずだ」 「確かに、待っていろと命じられた。しかし、戻ってこられるかどうかわからないのに、待ってなどいられない。  俺は…、前に総督の命令に背いたことがある。その時に、寛大な措置は一度だけだと言われている。だが、総督を救うためなら、俺は何度でも命令に背く。それで処刑されることになっても構わない。生きている総督に処刑される方が、総督の死に立ち会うよりマシだ!」 「ミハイル司令官が一緒だ。総督が危険な目に遭っているという確証はない。宇宙軍に戦争を仕掛けるなど、無謀もいいところだぞ」  とヴァレリオ。ここ数カ月で、アレクセイに全幅の信頼を置くようになっていた。 「ゴールドバーグ総督は極東戦争を引き起こした張本人だ。宇宙軍には目の敵にされている。もし、捕まったら解放されることはない。俺たちが助けなければ、総督は処刑されるか、セントラルに一生、幽閉されてしまう。コスモ・サンダーはかけがえのない総督をなくしてしまう。代わりができるものがどこにいるんだ! 総督はコスモ・サンダーの、俺たちの希望だ。コスモ・サンダーの戦闘員をすべてつぎ込んででも、助けるべきだ」  ゴールドバーグ総督あってのコスモ・サンダーじゃないのか! ポールは両手をバンとテーブルに叩きつけてそう叫んだ。 「賛成だ。総督がいなくなれば、コスモ・サンダーは崩壊してしまう。俺は総督のいないコスモ・サンダーには価値がないと思う。デイビス司令官、とにかく、出撃しましょう。細かいことは宇宙軍基地に近づいてから考えればいい。何かあったときにすぐ対処できるように、近くにいたい」  第4艦隊の攻撃部隊をまとめているハリーが援護射撃をした。いつからだろうか、レイモンドに傾倒している。 「よしっ! ついてきたいヤツだけついてこい」  ポールが立ち上がると、全員が一斉に立ち上がった。 「なんだ、ヴァレリオ、おまえも来るのか?」 「もちろん。わたしは何も助けに行くのを反対しているわけではない。ミハイル司令官がおられない今、第4艦隊を仕切るのはわたしだ。ミハイル司令官なら、中央艦隊に後れを取るわけにはいかないとおっしゃるだろう」  ポールは極東戦争が始まる直前に、アレクセイが宇宙艦を訪れた時のことを思い出した。 「そうだな。もしこの場にあの男がいたら、先頭を切って飛び出すだろう。普段は冷静なくせに、ことが総督に絡むとやたらと熱い。総督のためになると思えば、喜んで自分の命など投げ出す」  その場にいる全員がうなずいた。
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