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7 泣き言?
サイケなファッション誌から抜け出してきたモデルさながらのレイモンドが、ゆったりとソファに座った。顔には笑みが戻っている。
「ミスター・ラダーは俺の正体をご存じだったんですね。コスモ・サンダーの総督であることも、俺がクール・プリンスと呼ばれていたことも。……いつからですか?」
「知ったのは最近だよ。わたしはコスモ・サンダーの情報に詳しかっただろう? ところで、阿刀野くんと呼ばせてもらっていいんだろうか。それともゴールドバーグ総督の方がいいのかな」
「阿刀野レイはクリスタル号が爆発したときに死にましたが…。でも、ミスター・ラダーにゴールドバーグ総督と呼ばれるのも…。
ん~、まあいいか。ミスター・ラダーにとって俺は阿刀野レイですから、今までどおりに呼んでください」
「わかった。では、阿刀野くん」
「はい」
「キミともう一度、こんな風に話ができるなんて、夢のようだ。うれしいよ」
率直な言葉に、レイモンドは胸が熱くなった。
「だが、もっと早く連絡をくれてもよかったんじゃないか」
「申し訳ありません。弟にも冷たすぎるって詰られました。…確実に死ぬはずだったんです。俺はコスモ・サンダーを裏切った人間です。連れ戻されるときは死ぬときだと思っていましたし、覚悟もできていた。
それが、たまたま総督候補に挙げられて…。コスモ・サンダーは海賊ですから、俺の争いに誰も巻き込みたくなかった。阿刀野レイに戻ることはできなかったんです。幸い、リュウは宇宙軍の士官になってくれていたし、俺がいなくても生きていける。俺にはリュウ以外に心残りはありませんでした。
それに、総督候補に挙げられてからも、総督になるつもりなんか、まるっきりなかったし、そのうち、逃げ出すつもりでした。その時には、元通りになれるかはわかりませんがリュウに連絡を入れて…と考えていました。でも…、欲しいモノができて。それを手に入れるために流れに身を任せていたら、こんな風になってしまったんです」
「キミは2代目コスモ・サンダー総督、ゴールドバーグの息子なのだろう?」
コスモ・サンダーの総督を継ぐのは当然ではないかというニュアンスに、レイモンドが反論する。
「ミスター・ラダーの会社では、世襲制が通るのですか? コスモ・サンダーはバリバリの実力主義です。海賊ですよ、力のあるモノにしか従わない。俺は、俺より総督にふさわしい男がいるなら、いますぐにでも総督を譲りたい。自分が優れた男だとは思っていません。
それなのに、前総督と総督代理がコスモ・サンダーを託すのはおまえしかいないと…。重荷を押しつけて、手を貸してもくれずに、亡くなってしまった。酷い話でしょう?」
「そうだったのか。大変だったなあ、キミは頑張ったんだな」
「ミスター・ラダーにそういってもらえると、ほっとします。誰も誉めてくれないし、時々、これでよかったんだろうかと不安で…」
レイモンドが、ケイジ・ラダーに泣き言を吐いて、甘えていた。
『あの人でも誰かに誉めてもらいたいのだ』
強くて誰のなぐさめも必要としないと思っていたのに。
アレクセイはレイモンドの心を知った気がした。微笑ましくて仕方がなかった。だが、自分には少しも頼ってくれない相手を恨めしくも思う。
「キミらしくもない、弱気だな。それで、今日はわたしに泣き言をぶつけにきたのかい」
「それもありますが…」
「うむ。キミは一度、あの極東100日戦争の前に連絡をくれたね」
あの時。ケイジ・ラダーはレイモンドが何も言わないうちに、どんな状態であっても、いつでも受け入れると言ってくれた。阿刀野レイに任せたいといった惑星開発の約束は今も生きていると…。
「あなたの言葉は本当にうれしかった。あの時は総督になる気はなく、俺を慕ってくれるヤツらだけを引き連れてコスモ・サンダーを離れようと思っていました。それで、あなたに力を貸してもらえないかと、連絡したんです」
「ほう」
「海賊にも、海賊行為にも嫌気がさしていました。誰かに命じられて宇宙船や惑星を襲うことも、誰かに命じて略奪行為をさせることも、二度とするつもりはありませんでした。
コスモ・サンダーの名などほしいヤツにくれてやればいい、何もかも捨て去ってしまおうと考えていた…」
「しかし…」
「ええ、おっしゃりたいことはわかります。俺はあれから、コスモ・サンダーを統一するために宇宙全域を巻き込む大規模な戦闘を引き起こした。……矛盾しているって。
ミスター・ラダーに連絡した時には、海賊がどんなものか忘れていました。甘かったとどれほど悔やんだかしれません」
レイモンドはふっとため息をついた。
「それにしては…、きっぱりと総督宣言をしていたね…」
「マリオン、あっ、あの時の総督補佐が殺されて頭にきてたんです。でも、間違った決断だとは思っていません。コスモ・サンダーを統一するためには、他に手はなかった。コスモ・サンダーは海賊だから。力のあるモノにしか従わないから…。宇宙船やコスモ・サンダーの基地をいくつも破壊しました。ご存じのように、敵に回ったものたちを容赦なく殲滅した。
言い訳させてもらえるなら…、好きでやったんじゃありません。仲間同士の殺し合いなど愚か者のすることだとわかっています」
「ふ~む」
長い沈黙が流れた。ケイジ・ラダーは何事か考えているようだったが、つと目を上げて問う。
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