第一章

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8 宝探し 「……それで。今日、訪ねてきてくれたのは?」  ケイジ・ラダーは、ラジン鉱脈の開発を任せてほしいという話だろうかと見当をつけていた。レイモンドは任せたら必ずやり遂げてくれる男だと思うし、一緒に働くのは楽しいだろう。  ケイジ・ラダーはこの男のことを高く評価していた。レイモンドが海賊組織の総督であったとしても、いや、あの極東100日戦争を指揮したときの統率力があれば、どんな組織も指揮できると思う。  実際、驚かされたのだ。宣言通りに民間人には迷惑をかけず、敵対する勢力は叩きつぶした。誰もが逆らいもせずに命令に従い、一糸乱れぬ行動を取った。  噂されたような冷徹さにも関わらず、さきほどのアレクセイのように、命を張ってレイモンドを守ろうとするほど、みなに慕われてもいる。  類い希な男だと思う。  何より、レイモンドは阿刀野リュウの、殺されたと思っていた息子の命を救い、育ててくれた男である。ケイジ・ラダーは、その恩に報いるためなら、どれほど大きなリスクでも負うつもりであった。 「先ほども言いましたが、俺は、もう略奪はしたくありません。海賊本来の、俺たちにしかできない事業を始めたいと思っています」 「海賊本来の事業とは何だい?」 「宝探しです」  レイモンドは誇らしげに胸を張った。 「宝探し?」 「貴重な鉱物や人が住める惑星や新しい航路…。そんなものを探して、開発したい」  真面目な顔で言うレイモンドに、ケイジ・ラダーの隣に座っていたジャックが、あきれた声を出した。 「あんたなあ。鉱山を見つけ出すのがどれほど難しいかわかっているのか。危険をともなうし、運良く見つけたとしても、その惑星を開発して鉱物を掘り出し、商品として、必要とする相手に売り渡すまでには、途方もない時間と金と人が必要なんだぞ」 「わかっている。俺たちなら、一般の人が近寄りそうもない宙域を飛ぶことも、危険な惑星を調査することもできる。宝の眠る惑星を開発して守ることも、生産された荷を運ぶことも。運は俺が必ずつかむ。  それ以外に必要なものが人と時間と金ならば…、減ったとはいえ、コスモ・サンダーの構成員は3万人以上になる。恐ろしい宙域へ喜んで飛び込む馬鹿も、惑星開発に必要な頭脳を持つ男も、力仕事のできる男もいる。時間は…、これまで馬鹿らしい争いに費やした時間を考えれば、限りなくあると思っている。金はいつまでもつかわからないけれど…」  ケイジ・ラダーは頭の中で素早く思考を巡らす。 「大事業だよ」 「はい、わかっています」 「わたしは、ラジン鉱脈の開発を任せてほしいと言うのかと思っていたよ」 「ラジン鉱脈?」  部屋の隅で黙って立っていたアレクセイは耳を疑った。頑強な宇宙船をつくるのになくてはならない新鉱として注目されていながら、どういう条件で生まれるのかがわからないため、超貴重な鉱物であり、市場価格もべらぼうに高い。  アレクセイでなくとも、ラジン鉱の価値を知り尽くしている者なら、単なる鉱山ではなく、鉱脈という響きに驚きの声をあげただろう。  その鉱脈がコスモ・サンダーのものになれば、海賊行為などしなくても、構成員を養っていけるかも知れない。  アレクセイのそんな考えを読んだかのように、レイモンドが応えた。 「ラジンは超貴重な鉱物で、市場価格も高い。儲けも大きいだろうし、手伝わせてもらえるならうれしいですが…。メタル・ラダー社にとって重要な事業だと思います。俺たちは海賊ですし、コスモ・サンダーが手を出すと言ったら、社を挙げて反対されるんじゃないですか。その鉱脈を乗っ取るつもりだろうと。  うちの連中の中にも自分たちのものにする方が早いと言うヤツがいるだろうことは否定できません。先のことなど考えない馬鹿がいますからね」  考えを見透かされたような気がして、アレクセイは冷や汗をかいた。 「ふむ」 「俺はそんな即物的なことは考えていない。鉱山開発や惑星開発のシステムを作り上げたいんです。たとえ超貴重なラジンの鉱脈であっても、掘り尽くしたらおしまいです。鉱脈の眠る惑星一つを奪い合うより、もっと宇宙全域に目を向けて、自分たちで第2、第3のラジン鉱脈を見つけ出したい。それを自分たちの手で開発する。そして、必要とする相手と取引する。そんなノウハウをもった組織を作り上げたいんです。  あれだけの犠牲を払ってコスモ・サンダーを統一したのだから、艦隊を持つ俺たちにしかできない事業をやりたいんです」 「キミの思いはわかるが…」 「俺はもう、コスモ・サンダーの誰にも海賊行為をさせるつもりはありません。誰かに命じられて、いやいや宇宙船や町を襲うなんて。絶対にさせません。  ただ、忘れてもらったら困るんですが、俺たちはどこまでいっても海賊です。根本的には血の気が多い、荒くれ者たちの集まりです。自分たちの身を守るためにはためらわずに武器を取ります。宇宙のどんな無法宙域ででもやっていけるだけの力はもっていますし、これからも、その力は維持するつもりです」  コスモ・サンダーが違法行為をしなくてもすむような新規事業を立ち上げる。それがレイモンドの狙いなのだ。しかも、宝探しで。  レイモンド以外の口から出たら、ケイジ・ラダーもジャックと同じように笑い飛ばしたかも知れない。だが、この男が言うと、にわかに現実味を帯びてくる。  それにしても、何というスケールの大きさだろう。  運は俺がつかむと言いきった、何という自信だろう。  そう考えたのは、ケイジ・ラダーだけではなかった。ジャックもアレクセイも、レイモンドの決断に感心させられていた。
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