記憶 ~memories~

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 千景にお願いをして、響也に会った駅まで車を走らせてもらう。 「携帯、連絡ついた?」 首を横に振った。まだ響也とは連絡がつかない。 「それでも行く?」 「ん、ずっと待たせてしまったもの」 引き出されていく記憶が、早く響也に逢いたいと想いを募らせる。 「さよなら、千景さん」 車を降りて駅まで走った。改札口の前まで来て、再び携帯を確認する。 「響也……!」 彼からの着信に胸が踊る。今頃、貴方を思い出した私を、まだ受け入れてくれるだろうか。  握りしめた手の中で携帯が震える。 「響也、私……!」 『こっち』 「え、何処?」 『顔を上げて。真っ直ぐに、前』 耳に響いてくる響也の声が愛しい。  改札口の前、真逆に視線を向けた先に響也を見つけた。 「返事…… 無いから、逢えないのかと思った」 『ライン返したよ』 「走ってたから…… 気付かなかった」 携帯を手にした響也がだんだんと近付いてくる。 「響也」 目の前に響也がいて。私はやっと思い出してた。  事故にあったあの日、二人で指輪を買いに行く予定だったんだ。 「ずっと、待ってる。そう約束しただろ?」 微笑みが記憶の断片を繋げていく。たくさんの響也の笑顔が私の胸を占めていく。  待っていてくれてありがとう    やっと眠りから覚めたよ―― 【END】
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