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「千景さん……」
学生時代に恋をした。千景を追いかけて同じ大学に進んだ。
「大丈夫? 長い時間目覚めなくて心配してたんだよ」
端正な顔立ちが私の顔を覗き込む。優しい表情で笑う千景が大好きだった。
でも、なにかがおかしい。そう、どうして千景がここにいるの?
「琉花?」
ベッドの脇に腰をかけて千景が私の髪を撫でる。
「あ、あの……っ」
慌てて振り返るとにこやかに微笑む千景と視線が合わさる。
「どうして、千景さんが……?」
彼が卒業する時、思い切って告白をしたら振られたんだ。
だから、ずっと忘れようとして。就職してからは千景には会っていなくて。
会っていなかった――? 本当に? 頭の中に霧がかかったみたい。たった数年の出来事が上手く思い出せない。
「婚約者を見舞いに。本当に心配したんだよ、琉花」
え……? 千景の言葉にさらに思考が混乱する。
婚約? 私と千景が――?
「ごめんなさい、頭が……」
くらくらする。軽く息が上がり、顔が火照る。
「琉花、医師がいらしてくれたわよ」
前の扉が開き、母が医師を連れて戻って来た。医師はベッドサイドまで来ると私に病状の説明を始めた。
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