年上オメガは嘘をつく

24/24
1420人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
「言ったらどうした?俊樹はまだ学生で、オレの年すら知らなかった。それで、子供が出来た。実はオレは社会人なんだ。そう言ったら、お前どうしたよ?」 その言葉にさらに顔を強ばらせた彼は下を向く。 「大学を辞めるかオレに養ってもらうか。きっとどちらかだったと思う。でももし本当にそうなっていたら、今頃オレたちどうなっていただろう?オレはただ、お前の将来を壊したくなかった。そして誰よりも幸せになってもらいたかったんだ。だけどその時のオレには、それをしてやることは出来なかった」 もしあのとき、彼が大学を辞めて働いたとしたら、オレはそうさせてしまった自分が許せなかったと思う。もっとすごいアルファになるはずの彼の将来を、オレが変えてしまったのだから。じゃあ、大学を辞めず、オレの収入だけでやっていったとしたら、それはきっと彼のプライドが許さなかっただろう。曲がりなりにもアルファだ。プライドは高い。 どの道、あの時のオレたちに一緒にいる選択肢はなかったのだ。 下を向いたままの彼をオレは抱きしめる。 「あの時は無理だったけど、今なら大丈夫だろ?俊樹はオレたちを守るだけの力がある。オレたちを守ってくれるだろ?」 本当はオレだけでも天翼を養っていける。だけど、彼の気持ちを聞いてしまったら、オレは彼から離れたくない。彼と一緒にいたい。 ぎゅっと抱きしめる彼からは、後悔と苦悩と苦しみが伝わってくる。きっと何も出来なかった自分の無力さを責めているんだ。だけど、仕方がない。あの時はまだ彼は二十歳にもならない学生で、オレは分別のつく社会人(おとな)だった。オレの嘘を見抜けなかったとしても、それは彼のせいじゃない。 俊樹は何も悪くない。 その思いを乗せて、腕に力を込める。すると今度は逆に彼に抱きしめられる。 「守ります。僕が必ず二人を守ります。そして僕の一生をあなたに捧げます」 ぎゅっと抱きしめられた腕の中で、オレは彼からの愛情に包まれる。 「オレの命、俊樹にあげる」 だからずっと離さないで。 それからオレたちは抱き合ったままいつの間にか眠ってしまったらしく、起きた時には日付けが変わっていた。そりゃ発情期の間中寝る間も惜しんでひたすら身体を繋げていたんだから、二人とも疲労困憊もいいところだ。それでもオレより体力がある彼の方が先に起きていろいろ後始末や、食事の用意をしてくれていた。 さて、一日寝たことでオレの身体も回復したし、彼も当然のようにオレに引っ付いている。もうお互い離れることなんて考えられないので一緒に住む方向で話は進むと思うけど、まだ天翼との対面を果たしていない。 二人は仲良くなれるかな? そんなことを考えながら、発情期が明けたから迎えに行く旨をメッセージすると姉からすかさず返事が来た。 『二人で来るの?』 彼をこの部屋に招き入れた張本人は、事の顛末を分かっているらしい。 『天翼はなんて?』 『由貴が幸せならそれでいいって。いい子に育ったわね』 オレは天翼に無理をさせていないか心配だったけど、何となく大丈夫なような気がした。 天翼は多分、エントランスで彼を見た時からどうなるのかを予測していたような気がする。 聡い子だからな。 でも本当に無理していないかどうかは会えば分かる。 頼りなくても親は親。 もっと大きくなったら、上手く隠されちゃうんだろうけど、まだ分かる自信はある。 オレはこれから二人で天翼を迎えに行くと姉に伝えた。 さて、対面した二人はどんな反応をするんだろう。 オレはそんなことを思いながら、これから一緒に天翼を迎えに行こう、と彼に告げた。 了
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!